事故ったことありますか?

リラダン事件簿その1

こンな小っさいレストランで話題に事欠かないのはウチ位だ。警察沙汰だけでも片手で足らない。
まぁ私の場合、住吉美紀さんから「ポジティブですねぇ〜」と感心される程、私は自身に起きた出来事をプラスになる様に努める。コレは特技と言っていい。そもそも、出来事に幸不幸の性格を与えるのは人間だけ。野生動物は起きてしまった事を嘆くのではなく、そこからどうすれば良いかを考える。悩みは生存する上で何も生み出さない。悩みは外因によるものだと皆考えるけど、それはちょっと違う。廻りが変わらなくても、悩みは生まれたり消えたりする。「悩む」という感情は、自己コントロールできるはずなのだ。

2020年。
ダイヤモンドプリンセス号が横浜に入港した1月。私はMINI伊勢崎のショールームで、200円の収入印紙を貼った新車注文書を担当のOさんから受け取った。
私「納車、4月位ですかね」
Oさん「うまくいけば、ですけど」
「シートヒーターは必須ですよ」と私が言ったらOさんが「オーダーになりますよ」と。今時は軽自動車でも付いている装備だが、日本国内在庫のMINIは付いておらず、当時はメーカーオプションだった。
私「全額、なんとかなるンですけど」
Oさん「オカネが無いからローンっていう人も居ますけど、今のご時世、ナニがあるかわかんないじゃないですか。払えるけど、なにかあったら困るからローンを組む。それも考え方です」
確かに。キャッシュフローは有る方がいい。とゆーことで、手付金30万、頭金300万、残金220万を4年ローンにし、ボーナス払い無しで毎月4万。
利率1.98%で利息総額は9万円。あ、今月でローン終わります。

2020年2月6日、英国オックスフォード工場で生産ラインに載ったとの連絡が入り、翌7日には船に積まれ、日本へ。スエズ運河を経由してインド洋を通過した船は二ヶ月かけて千葉県の港に到着。VPCセンターで適合検査ののち、前橋の陸運局でナンバー登録。MINI伊勢崎で納車したのは4月下旬。そして、居眠り運転の軽自動車に突っ込まれたのは、納車後二ヶ月も経たない6月のことだった。

・・・・・・

2020年6月18日の木曜日

当時の取引先、METRO高崎店へ仕入れに行った朝。私は正面入口前の横断ゾーンの横にMINIを停めて店内へ。いつものようにカートを押していたら、フロントのSさんが走ってきた。

Sさん「リラダンさんのクルマに、ウチのお客さんが当てちゃったみたいなんです。すぐ行ってください!」

はぁ?当てたって何を?カート?

 

Sさん「車をぶつけてしまったそうです。早く!」

 

まじか。外へ出てみると、目の前に停めていた私のMINIが、ぶつけられた衝撃で隣りのハイエースにゴツンし、斜めに。周囲に目を配ると、前が潰れた黒色のダイハツムーヴのラジエーターから漏れた冷却水が駐車場を濡らしている。そこへ男性が歩み寄ってきて頭を下げた。

 

なにやってンのよ

 

男性(S)が名刺を出しながら私に言うには、前橋で居酒屋を経営している。昨夜未明に帰宅し、就寝したのが3時頃。今朝子供を保育園に送り届けた後、睡魔と戦いながらMETRO高崎店に到着したまではよかったのだけれど、駐車場に入った時点で意識が " 落ちてしまった " と。

 

ノーブレーキで?

 

S「気が付いたら、ぶつかってました」

 

すると、横に居たハイエースの男(K)が言った。

 

K「しょうがねえよ」

 

は?

 

K「起こっちまったものはしょうがねえよ」

私「あなたがどう思ってもいいけど、それはあなたの問題でしょ?オレの聞こえる所で言わないでくれる?」

K「しょうがねえからそう言ったんだよ」

私「あなたの車は擦りキズだけど、オレのクルマは走行不能なんだよ。どうでもいいンだったら向こうに行ってなよ(笑)」

K「なんだと!」

 

私はスマホを取り出してMINI伊勢崎に電話。担当のOさんは驚愕しながら「すぐ行きます」とのこと。電話を切り、METRO高崎店の入口へ向かう男性を見かけたら、前橋でカフェを経営するSさん。私は声をかけた。

Sさん「シェフ、どうしたの?これ」

私「ぶつけられちゃいました。Sさんはどう思います?コレはしょうがないねって思う?」

Sさん「いやいや!そういうワケにはいかないでしょ」

 

そーだよね

 

K「なんだよ!」

私「あ、聞こえちゃった?ごめんごめん。今度っからはアンタに聞こえないようにするからサ (笑)」

Kは私に掴みかかる勢いで身体を寄せてくる。そこへ居酒屋Sが割って入り、ハイエースKに向かって言った。

 

S「ちょっとやめてください!私が悪いんですから。あなた向こうに行っててくださいよ」

 

この時パトカーが入ってきた。居酒屋Sが連絡したと思われる。警察官が各当事者に事情を訊き始める。私を担当したのはK巡査長。ご覧の通り被害者です。ハイ。

 

そこへ、一台のキャリアカーとMINIクロスオーバーが駐車場にゆっくりと入ってきた。無惨な姿になった私のMINIを見たMINI伊勢崎のOさんは居酒屋Sに対し、このMINIがどれだけ待って納車された大切なクルマなのかを、怒りに満ちた様相で説明。私の代わりに怒ってくれるOさん。ホント、感謝です。

 

Oさん「これはもう、新車にしましょう」

 

保険というものは基本「原状回復」が前提なので、どんなに理不尽な故障や事故でも直して乗るのが保険の世界。これは車に限らず、そういう考え方だ。だがMINIには「新車保証」というものがある。これは非常に珍しい保険なンだけど、全損、又は車両価格の50%以上の修理費用がかかる場合、メーカーから新しい車両がオーナーに与えられる。Oさんは、私にもう一度オーダーすることを提案したのだ。

 

だが私は、このMINIを直して乗る選択をする。なぜかと言うと、

 

自動車メーカーとゆーのは、マイナーチェンジ、ビッグマイナーチェンジ、フルモデルチェンジといわれる仕様変更を定期的に行うンだけど、BMWに限って言うと、購入者に知らせない仕様変更をしょっちゅうやっており、私はそういうMINIの仕様変更を細かく調べていて、購入するタイミングを1年以上前から計画していた。実際、もう一度オックスフォード工場に同じオーダーをかけることが出来るか、全く同じ仕様のMINIを発注出来るか、

MINI担当のOさん以上に熟知している私の経験上、それは限りなく不可能なのだった。それにしてもOさん、到着するの早かったですね。キャリアカーまで用意してるし。

Oさん「高速使って来ました。レッカーの手配も必要かと」

 

さすがです

 

私は店内に赴き、フロントのSさんに店長室を貸してほしいと願い出る。そしてボールペンとコピー用紙を数枚、朱肉を所望。現場に戻り、居酒屋SとOさんに声をかけ、店内で話をすることを提案。K、オマエは来なくていい。その辺でブラブラしてろ。

店長のNさんはリラダンのお客さんでもあり、我々三人に店長室とコーヒーも用意してくれた。


言うまでもなく、この案件の過失割合は0対100。MINIにかかる全費用を持つのは加害者側の保険会社なのだが、まずは、居酒屋Sに確約させるべきことがある。


S「本当に申しわけありません」


私「まず、私は今日のランチ営業が出来ない。これは承知してもらえるよね?お金で解決するしかないンですよ。私が金額を決めてもいいンだけどSさん、あなたが決めていいよ。幾らくれる?」


S「誠意がないって言われてしまうかもしれませんが、10万でいかがでしょう」


私「いいよそれで。で、口約束ってワケにはいかないから念書を作ります。オレが言う通りに直筆で書いてくれる?」


Oさん「私はちょっとレッカーの様子を見てきます」


Oさんは店長室を出て行く。私は同じ書類を二枚作ることを居酒屋Sに伝え、思いつくまま、ゆっくりと語る。


「令和2年、6月18日木曜日に、私が発生させた事故により、フランス料理リラダンの営業を休業させてしまいました。令和2年6月18日木曜日の売上分と致しまして、損害分10万円を私(S)がお支払い致します。令和2年6月19日金曜日のAM10:00に、フランス料理リラダンにて待ち合わせ、その場で現金でお支払い致します。S 」


Oさんが店長室に戻ってきた。私はOさんに、もしMINI保険を使うことになった場合、等級が下がって保険料が幾ら増加するのか算定して欲しいと保険担当に連絡してください、と伝え、一息入れる為、コーヒーを口に運ぶ。


Oさんの携帯が鳴り、保険料の差額が判明した。ザックリ計算だが、69,600円増えるとのこと。私は居酒屋Sに対し、もしMINI保険を使うことになった場合、この差額も負担する旨を追記することを求める。


私「甲はオレ、乙はあなた。今から書いてもらうことを言うから、空いたスペースに直筆で書いてくれる?」


「自動車保険の差額による金額が確定したら、乙は甲に対し、甲の指定日に現金にて、フランス料理リラダンで支払います。乙」


私はこの念書を持って店長室を出て、フロントのSさんにコピーを一枚お願いする。店長室に戻った私は、居酒屋Sの親指で二枚に押印させ、原本は私、複製は居酒屋Sに持たせる。


Oさん「じゃあ行きましょうか」

どこに?

Oさん「MINI伊勢崎ですよ」

乗せてってくれるの?あざす!


居酒屋S「ホントに、すみませんでした」

あした、待ってますよ。


OさんのMINIは私を助手席に乗せ、

高速入口へ走り出したのだった・・

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翌日。

居酒屋Sは定刻通り、リラダンに現れた。両手にはシャトレーゼのお菓子をこれでもか、とゆー多さで。お互いに朝の挨拶。


沢山のお菓子。頂戴します。私は居酒屋Sの手にする封筒から紙幣を取り出し、目の前で数えてから受け取り、領収証を書いて渡す。そして30分程、前橋で経営する居酒屋の話、ご家族の話に耳を傾ける。聞いた話ではつい最近、店に投資もしており、お金も必要な時にも関わらず、誠意があるし。

私は応援したい、と彼に伝えた。


私「この10万、ホントに貰っちゃっていいの?」

彼「はい!それはもう。私の責任ですから」


次回から、私のMINIがどういうシナリオで復活したかを呟こうと思う。


つづく