7éme「ブルターニュの祭り」

5月の半ばで気温35度越えの猛暑日は30年振り。

ご来店頂いたソワニエのSさん。ラディシオン(お会計)の時、私のヘアバンドに視線を向けて、

私:「実はオデコを7針縫いまして」

Sさん:「なに?どうしたの?」

私:「外の天窓洗ってたら」

Sさん:「うんうん」

私:「宇宙人にさらわれそうになって」

 

必死にもがいたら落ちたンです。

 

20年目を迎えたリラダンには、すでに多くのソワニエが存在している。鳴かず飛ばずで細々とやってる店が、なンの心配も無く経営出来ているのはご来店頂く皆々様と、

 

ソワニエの存在がとても大きい。

 

大雪だろうが計画停電だろうが、コロナだろうがおいしくないものが出てこようが、バターが無くてもおしぼりがなくてもひざ掛けがなくてもハタチ未満は入店できなくても、

毎年のように値上げを繰り返しても、リラダンにご来店くださっている。リラダンにそっと寄り添い、支えてくれる。「常連客」とか「フーディー」とはちょっと違う。「ソワニエ」というのは、店の酸いも甘いも、すべてを受け止めてくれるお客さんのことです。

そういう人を特別扱いするのはなンの不思議もないし、他のお客さんとおんなじっていうのは逆にどーなのよって思う。ご来店のお客様全てに良いものをお出しする。それは当たり前です。私が言ってるのは「ココロ」の問題。

 

フランスでは、レストランにソワニエが来店すると支配人が対応し、すぐに厨房のスタッフ全員にソワニエが来たことが伝えられる。そして、ソワニエの注文した料理は料理長であるシェフが担当し、他のキュイジニエ(料理人)に仕上げを任せない。リラダンでは、伝票(ラディシオン)は二枚複写のものを使っていて、一枚はサーヴィス用、もう一枚はキッチン用なんだけど、グランメゾンになると部署が多岐に渡り、飲み物を用意するバー部門、前菜部門、魚部門、肉部門、そしてデザート部門に複写伝票が配られるので、5枚複写のものが定番だ。伝票にはオーダーが書かれ、空いたスペースに大きく「ア・ソワニエ」とサインが入る。フランス語で「念入りに扱う」「大事にする」という意味。シェフは各部門を廻り、普段任せている仕上げをチェックする。フランスってそういう国。

リラダンでも複写されたキッチン用の伝票には走り書きがされるのだが、ウチの場合、ご予約されたお客様のお名前が書かれている。オーダーを読み上げる際も、お客様のお名前が厨房へ伝えられる。

リラダンは料理が出てくるのが遅いんだけど、お客さんの中には溜息をつく人も居る。でもソワニエは違う。テーブルの横を通ると「ガンバッテね!」「待ってるからダイジョウブ」「後回しでいいョ」 忙しい様子を見て応援してくれる。私は嬉しくなって肉をブ厚くしたり、メニューに無い料理を出したりする。

 

先日、朝の準備中に電話が鳴って、

男性:「あのぅ、大変失礼なことをお尋ねしてもよろしいですか?」

私:「どうぞどうぞ」

男性:「そちらでは、障がい者手帳を持ってると食事代が無料になるって聞いたんだけど」

私:「メシ代がタダっていうのは無いですね」

男性:「じゃあやっぱりデマなんですかね」

私:「なンでウチなんですか?」

男性:「言った人がそちら(リラダン)だと。やっぱり違うんですね」

私:「別の店に電話してみたらどうですか?意外に "どうぞ " って言うかもしれませんョ」

男性:「いやホント、失礼なことを言ってしまって」

私:「いやぜんぜん失礼じゃないですよ。むしろ面白い。ブログに書きます」

電話を切った後「こーゆー人がだまされちゃうンかね」って思ったけど、

 

しばし考えてみる。実は私も、アマゾンから書籍が届くことになってた午後、スマホが「チーン」って鳴って、メッセージを確認したら「留守なので持ち帰りました」。慌ててタップしようとした私は手を止めた。そう、フィッシング詐欺ってやつ。

オレも釣られそうになった w

 

5月18日。

営業用のバゲット(パン)が足らなくなり、箕郷にあるプラリネ(パン屋さん)に電話。残ってるバゲットを取り置いてもらい、クルマで取りに行く。巷のレストランでは自家製のパンを提供する店が多い。それはそれでとても良いことだし、スゴいね!ガンバッてるね!って話なんだけど、フランスのレストランは基本、パンはパン屋で焼いてもらう。自家製のパンを提供するのはグランメゾンやガストロノミーな高級レストランの場合だ。一般のビストロやカフェは、ネオビストロ、ビストロノミーと呼ばれる高級店を含め、パリ市内のブーランジュリーでパンを焼いてもらって、リラダンみたいに取りに行ったり届けてもらったりしてる。レストランとパン屋さんは共存共栄。それがフランス。

否定肯定を論じてるのではない。ご同業諸氏は、パンはジブンで焼いたほうがオイシイって思ってるから焼いてるんだと思う。私の場合、料理もお菓子もオレが作った方がオイシイからジブンで作ってるんだけど、パンはプロに任せてる。確かに自分で焼けばコストカットに貢献できる。上手に焼けたら嬉しいし、経験を積めば知識も増す。ノエル(クリスマス)に、スペイン産のパンセタを使って私は毎年ベーコンエピを焼いてた。どうして自分で焼いたかっていうと、パン屋のエピよりおいしかったから。今はもうやめたけど。

5月20日。

箕郷へパンを取りに行った帰り、MINI高崎に寄る。DMをもらってたので来店。フロントのHさんが出迎えてくれる。

Hさん:「アイスですね?(笑顔)」

私:「いただきに来ましたョ」

Hさん:「どれにしますか?」

私:「抹茶三段で。それとハチミツゆずを」

MINI伊勢崎には行ったんですか?と訊かれて、明日行きます。と返す。ショールームに入るとアドバイザーのSさんとフロントのKさんが出迎えてくれる。話題はもちろん " 7針 " の話。それにしてもタイムリー。MINI JAPANはアイス事件をシャレにしてんのかなと思ったけど、こういうイベントは全て、年間スケジュールとして前年の会議で決定済みのはず。ちなみに6月は高崎オーパで展示会。MINIオリジナルボールペンがもらえる。

その翌日、ランチが終わって仕込みをして、一段落着いたのでMINI伊勢崎へ向かう。エンジンフードのエアインテークを交換することになっていたのだが、輸入車は基本、パーツは未塗装で届く。伊勢崎のビッグベン(塗装屋さん)でペッパーホワイトに塗装され、ディーラーに納品された。その後、MINI伊勢崎へ行く日に洗車して、セームで拭きあげていた私はハッとしてスマホを取り出して電話をかける。

私:「私のMINI、ボディーコーティングしてたのを忘れてました。もう遅いですか?」

Oさん:「あ、確かにそうでした。あした、エム(コーティング屋さん)にパーツ出します。延期になっちゃいますが大丈夫ですか?」

私:「全然大丈夫です」

そういうやり取りがあってこの日が交換日。雨の中、MINI伊勢崎に到着。ショールームに入るとフロントのYさんとAさんが出迎えてくれる。で、アイスのハシゴと相成って、ピスタチオと梅昆布茶を所望する。話題はもちろん " 7針 " の話。拡散希望 w

昨年の10月、数あるボディカラーの中では定番中の定番だったペッパーホワイトがドロップアウト(生産終了)。代わりに登場した「ナノクホワイト」をまとったクラブマンの隣りに私はクルマを停め、見比べてみる。

ソリッドのペッパーホワイトと違ってメタリックだからか、光の加減で明るい時のペッパーホワイトに見えたりする。そもそも地色がかなりキレイ。

Oさん:「皆さん、なかなか好評です」

私:「これはいい色ですね」

 

リュシアン・シモン(Lucien Simon) 58歳の作品「ブルターニュの祭り」は、この地方のカトリック信徒によるパルドン祭を描いている(と思う)。この " ゴメンネ祭り " はその名の通り、謝って許してもらっちゃおうっていう巡礼の行事。要するに懺悔である。罪を告白するってことは反省してるってこと。聖人のお墓を廻って「ゴメンネ」「ゆるしてね」って心で呟く。

現代でもパルドン祭は続いているんだけど、シモンの描く祭りを見ると、壇上の上に立つのはピエロとアルルカン(道化師)とプロレスラーの三人が向かい合ってこれから闘うって感じ(笑)。扇子を持つ白いドレスの女(ラウンドガール?)、大きなドラム(ゴング?)を叩く赤い道化師(レフェリー?) それを廻りで観るコワフの女性と水夫、兵士、走る子供。青い空に白い雲。フランス国旗を含む四つの旗が風で揺れている。ブルターニュという異郷の地で催される奇祭も、多くの画家を惹き付ける理由になっていたので、パルドン祭が開催されると、イーゼルを立てた画家が廻りに立ち並ぶので別名 " 画家祭り " と揶揄されたこともあった。シモン同様、パルドン祭を描く画家は他にもたくさん居たンだね。

日本でも縁日には、寺や神社の境内、参道などに露店(テキ屋)が立ち並ぶ。私が小学生の頃、学校の運動会では必ずテキ屋が並んで、金魚すくい、焼きソバ、お好み焼きとかミカン飴とか。お昼は家族が持ってきたお弁当を広げる昭和の時代。運動会という名の、地域のお祭りだった。あの頃と違って、今は世知辛い世の中になっちまったね。

 

シモンは若い頃、兵役で出会った画家と仲良くなって画家を志すようになった。ブルジョワ階級出身で、パリでは名士だった画家の作品は展覧会へ出品すれば高い評価も得て、多くの若い画家達をブルターニュへ向かわせた。

73歳でフランス海軍公式画家。人生の半分以上をブルターニュで過ごしている。

 

1919年頃 油彩/カンヴァス 165×200.5cm

Lucien Simon

松方コレクション