Encore, c'est qoui le vin ? (で、ワインってなぁに?)

ステファニーに何度も送り迎えをしてもらって、ブリュモン氏の車にも同乗してたから、彼女の娘アルバンヌ(6才)と、ブリュモン氏の息子アドリアン(3才)とは当然仲良くなる。水曜日は小学校が休みだから、この子達と一日中一緒に居た。

ナタリーもステファニーも、フランス語があまりきれいではなくて(言い方悪いけど下品)。例えば、パン(Pain)は"ペイン”、「明日」という意味のドゥマン(Demain)を"ドメイン”、「朝」という意味のマタン(Matin)を"マティン”って発音するから最初わかんなくて。帰ってから夜、グザビエとクロディに訊いたら「その発音は違う」って言ってた。今思うと、ステファニーの名前はアルバレス・ステファニーで、ナタリーの名前はサン・ジュネス・ナタリーっていうんだけど、祖国はフランスじゃなくてスペインかポルトガルかな。確かなのは、ニッポンジンのオレよりずっとしっかりしてたってこと。

ナタリーはシェフ。ステファニーは手伝い。キッチンへ入る。40人分のマンジェを用意。オードヴルはパテとリエット、コルニション。メインは仔牛肉のファルシ(詰め物)をロティしたものに、フォンを加えてミジョテする。ガルニチュールはインゲンをにんにくとパセリでソテ。デセールはダノンのヨーグルト。

14時になったらすることが無いのでワイン造りの手伝い。スタッフのロマンと一緒にエペパネ(ブドウのタネを取り除く)の作業。

そのあとは帰るまでブドウ畑を歩いてみる。シャトーの横に試験栽培用のブドウ畑があってね、実を摘んで口に含んでみたら、

私:「甘ッ!」

なんじゃあこりゃあ!

あまーい!

タネはデカくて、果肉はまわりに薄く付いてるって感じなんだけど、こんなにウマいブドウから、そりゃあ美味しいワインができるワケですよ。

ブリュモン氏がスタッフに何か指示してた。どうやらカビているブドウの実を手で取り除くように云ってるみたい。

明日から雨が降るってんで、ブリュモン氏が苦い顔をしていた。

次の日。

ブリュモン氏に「なんかデセール作ってよ」と言われて。うーん、じゃあ、、

キッチンの外へ出るとイチヂクの木が。2メートル程の小さな木なんだけど結構実が付いてる。ステファニーに「プードルダマンド買ってきてくれる?」とお願いしたんだけど、500gしかなかったみたいで。40人分だからなぁ。しかたなく、アーモンドをロボ・クープ(フードプロセッサー)で粉末にして足す。小麦粉2キロでパート・シュクレを練った後、クレーム・ダマンドをナッペしてから摘んできたイチヂクを並べてたら、アルバンヌとアドリアンが「大好物!」って言いながらヨコからつまみ食い。おいおい、食いすぎだって!(爆笑)

そのあと、骨付きの若鶏をポワレしてたらブリュモン氏が「お、料理しているじゃないか」とニッコリ。イチヂクのタルトを食した氏は「おいしいから彼女達に教えてやってくれよ」と言う。どうやら既製品のデザートばかりで辟易してるらしい。フランスの冷凍タルトってフツーにオイシイと思う。マンジェなんだからそんなんで良いと思うよ?まぁ確かに手作りにはかなわないか。

サラマンジェ(食堂)の奥には、エチケット(ラベル)を貼ってないブーテイユ(ボトル)が30本位並んでる。中身は製造中のワイン。要するに、テイスティング後のワインをマンジェで回し飲みしてるってワケ。どれも飲めるレベルなんだけど、たまに酸っぱかったり、「コレまだジュースじゃん」っていうのも。あ、白は数本で、ほとんど赤なんだけど。

ブリュモン氏が私に「毎日デセール作れ」って言う。氏が立ち去った後、ナタリーが「二日に一回でいい」って。明日はマダム・ブリュモンのバースディなので、40人分のガトー・オ・ショコラを焼く。もちろんマダムにはヒミツ。

翌朝、メテオ(天気予報)が言ってた通り。雨が降ってる。ヴァンダンジュは中止。電話でナタリーから今日は休みだと連絡があったらしいんだけど、マダムの誕生日だし、グザビエに事務所に電話してもらったらやっぱり来て欲しいとのこと。10時過ぎ、グザビエから黒のフィアットパンダを借りて一人、シャトーへ向かう。

前菜は作りたてのガルビュール。メインは牛肉のブランケットに、タマネギのスライスをバターでスゥエし、そこへコメを入れて炊いたもの。料理はナタリーにやってもらって、私は前日に準備してたバースディケーキにとりかかる。

マルミットにブーレして、アルミホイルを貼り付けてまたバターを塗る。150度のオーヴンで約60分焼成。これだけでは足らないので、タルト型とグラタン皿で計3台焼く。これにアルマニャックのクレーム・シャンティをナッペし、廻りにはオレンジのロンデル。板チョコの裏にパスティヤージュでBon Anniversaireと書く。ロウソクを41本立ててアリュメ。

昼は事務所のスタッフ達とブリュモン夫妻で15人位の会食なんだけど、ガトー・オ・ショコラは全部使った。バックヤードで後片付けしてたら事務所の人がやってきて「おいでよ!マダムにオメデトウって」いやいや、恥ずかしいよ。で、サラマンジェへ行ったら拍手で迎えられて。主役はマダムです(汗)。マダム、誕生日おめでとうございます。

 

水を一滴も使わないで作るお酒はワインだけ(ということにしとく)。

ブドウの絞り汁しか使ってないのに、ワインっていろんな香りがする。

リラダンではフランスワインだけ。それもごく一部の産地のみだから、リラダンのキャルト・デ・ヴァン(ワインリスト)には数えるほどしかワインはない。理由は、世界中のワインに私の料理を合わせてもしょうがないから。それに、フランス料理にはフランスのワインでしょ。お客に出してるワインを料理にも使ってるから合うに決まってるしね。安くてウマいという理由でイタリアワインをインポーターから勧められるけど、私は「ウチ、フランス料理店だから」と言って断ってる。他の店を見るとジャンルや国を問わずたくさん用意してるみたいだけど、そんなに置いてどうすんの?

リラダンでは、ワインを飲みたい時は料理を選ぶだけでいい。

「赤が飲みたい」って言われたら赤を出す。「選びたい」って言われたらリストを渡す。

どう?カンタンでしょ?フランスと一緒。

 

スワーリングするのはバイヤーだけ。

メシ食う時にそんなことする人、ブスカッセでは居なかったね。

 

おわり