ガルニチュールを考える

外まだ真っ暗だよ。。

 

フランスでは付け合わせのことをガルニチュールという。文字通り、メインとなる食材に添えるものをいい、添える理由としては、1.互いに引き立て合う 2.ボリュームを出す 3.単体でも魅力がある

巷を見渡して私が思うのは、なぜこれが添えられるのか、と首をかしげる料理が非常に多いことだ。これは疑問ではない。料理人としての私と、それを作る料理人との"価値観の相違"だと理解している。確かにインスタ映えしそう。オレはしないけど。

見た目の良さは大切だ。美しく盛る、おいしそうに盛る。口に入れた時のテクスチャー、アロマ。食べ手を飽きさせないこと。

フランスのグラン・シェフにミッシェル・ブラス(Michel Bras)がいる。氏がまだ40代、今から30年前に料理書で知った人物で、当時日本では「ミッシェル・ブラ」と紹介されていた。確かにスペルからみるとブラが正しい発音。仏語では、最後が子音で終わる場合発音しないのが決まりなのだが、その後、本人からブラスである、と訂正が入った。

蹄鉄工だった御父上の仕事が減って、家族でエピスリー(食料品店)を開業する。店には小さなカウンターバーが有った。そこで料理上手の御母上がお客に食事を作って出すと評判が高まり、包丁の店が立ち並ぶラギオールにレストランを開業する。

ブラスが生まれたのはこの頃のことだ。成長と共に母上の元で料理を学ぶので、グランメゾンでの修業経験はゼロ。氏がインタヴューで語ったのは「皿の上にあるのは、本当に必要なものだけ。不用なものはすべてそぎ落とすから、残っているのは真実のみ」

 

La Dorade Assaisonnée aux Feuilles de Romarin,Huile au Romarin et Déclination de Cucurbitacées

"ローズマリーの葉でアセゾネした真鯛、ローズマリーオイルとウリ科の植物添え"

 

皮を引いた真鯛の尾をパヴェにクぺしたものをポワレ。キュキュルビタセというのはウリ科の植物のことで、ブラスはクールジェット(ズッキーニ)をエマンセにしたものをブランシールし、ブールバテュに塩を加えたもので温めている。これが真鯛のガルニチュール。

まず美しい。真鯛に添えられるのはウリ科の野菜だけなのに皿の上は賑やかだ。皿も熱くしているのが解る。

 

La Fricassée de tous les Champignons et de Blette, Peau de Lait et Beurre Noisette

"すべてのキノコ、そしてブレットをフリカッセにして、ミルクの「皮」と焦がしバター添え"

 

直訳した私が悪い(笑)。要するに季節のキノコのこと。でもミルクの皮っちゅー表現がステキ!←自画自賛 牛乳を温めた際に生じる被膜を添えている。え?と思う方もいらっしゃると思うが、フランスのミルクって日本のそれよりも濃厚で、しかもオー・ブラックという大自然のド真ん中だから相当すごい牛乳なんだろうね。ブレットが一瞬トロンペット・デ・モールに見えちゃうのは私だけ?あ、ブレットっていうのはスイスチャードのこと。ここ群馬県でも農家さんが産直に並べているね。あれ、クタクタに煮るとうまいのよ。フランスって、インゲンとかも歯応えが無くなるまで茹でるから色が抜けちゃって、え~ざんねーん、って思って口に入れてみると、これがうまい。マドレーヌばあちゃんに私が色鮮やかにインゲン茹でて出したら「シュンニ~、まだ生だよぉ」って怒られた。私が初めてマドレーヌに会って自己紹介した時に、「シュンイチのイチは数字のイチ、ニ、サンだよ」って説明したら、それからずっと「シュンニ~」

違うって!

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素材のマリアージュって言うけど、これは料理人にとっては基礎中の基礎である。例えばトマトとバジル、サカナとディル、肉と香辛料、コメとバター、、

相性の良い同士を、ペアリングの基礎を、頭に叩き込む。理想的な手法、野菜をソテする際は動物性のオイルを使うとおいしかったりする。バターとかラードとか。肉や魚を焼く時には植物性のオイルを使う。オリーヴオイルとかひまわり油。でも、野菜をオリーヴオイルで仕上げるラタトゥイユやカポナータ、牛フィレ肉のアンティエをたっぷりのバターでアロゼするとウマいステーキになるし、ナスやピーマンがフランス料理になる。

仔牛や家うさぎのブランケットにはバターライスやヌードルが定番だし、ブフ・ブルギニヨンにはたっぷりのニンジン、ニシンやイワシのマリネにはポム・ア・ルイユ(オイル漬けのじゃがいも)。トラディショナルなフランスは私が愛する定番。そして、過去のグランシェフが生み出したスペシャリテがガルニチュールの定番になる例も多い。トロワグロのソーモン・オゼイユ、ベルナール・ロワゾーのカエルのパセリソース、ミッシェル・ブラスのガルグイユ。それらは世界中のシェフがコピーし、真似をして、功罪有る中広まる。

フランスの国民食ともいえるステック・フリ(フリット)は、牛肉のステーキに山盛りのフライドポテトを添えるものだ。パリを歩けばどこでもあり付ける料理。ポテトは無料でおかわりできたりするのもうれしい。ただしソースは無くてマスタードが添えられる。おいしいんだけど全てマスタード味になっちゃうから私は合点がいかない。そこでリラダンでは仔牛のフォンを軽くレデュイールしてモンテ・オ・ブールしたジュをたっぷり皿に流している。このソースと肉、ポテトの三種をまとめて口に運ぶとうまいのだが、ポテトだけ全て残す人が居る。ポテトがキライなのか健康上の理由なのか定かではないが、この料理の魅力が半減しているのは否めないし、そもそもメニューに"フライドポテト添え”って書いてある。ポテトがイヤならオーダーすんなよ。。

 

20世紀も終わりの頃、フランスのグランシェフ10人に10の質問が実施された。「人生最後に食べたい料理は何ですか?」それに対し、3人が答えたのは「プーレ・ロティ ポムピュレ添えを食べたい」これは若鶏を丸ごとローストし、マッシュポテトを添えるもの。リラダンでも数年前までは時々ランチでご用意したけど注文する人居なくてね。多分、チキンは家でも食えるって思ってるか、チキンソテーだと思われてる。首を落として内臓を抜き取り、粗塩と胡椒、ミルポワと皮付きのにんにく、バターを鶏に塗ってオーヴンへ入れる。注文が入ってからデクパージュ(切り分ける)。胸肉をおいしく食べる方法として、これ以上の調理法を私は知らない。日本人は腿肉を好むけど、フランスでは胸肉が最高の部位。キュイス(腿肉)はおまけ。鴨でも鳩でもそう。クリスマス、フランスでは出掛けずに鶏を丸焼きにしてシャンパーニュ。最高の部位である胸肉はまず女性へ配られるのだ。デクパージュは男性のお役目。偉大なシェフも、記憶の中に刻まれる。 

 

ガルニチュールは基本、一種類に絞られ、料理名には調理法、ソース、ガルニチュールが記載されるのが普通なのだが昨今、素材名だけ並べる料理名がガストロノミーの世界でみられる。例えば「カブ、トリュフ、仔鳩」というような感じ。一般の人が見ると意味不明だが、ナゾナゾみたいで面白い。まず、仔鳩がある時点で「主菜」であることがわかる。カブがガルニチュールで、同時に香りを補うトリュフ。素材の組み合わせはどうだろう。カブは土を思わせる野菜。仔鳩はジビエだから、秋から冬にかけて森で見かける野鳥。トリュフも森の土中から取り出されるキノコだから合うに決まってる。私だったらソースに仔鳩のジュを用い、心臓と肝臓を裏漉しして加えるかもしれない。で、料理が運ばれてくると想像していたのと全然違うのに「おいしい!」そういう店は楽しいと思う。

これは暗にネタバレを防ぐ狙いもあるので、提供時には料理の説明が欠かせない。リラダンでも、今年のノエルはメニューを置くのをやめた。私は古い人間なので、料理名には主材料、ソース名、香り、ガルニチュールを明記するのだが、あえて素材名だけで書くのなら、、

 

「カンパチ、アワビ、オマール」

 

これだけだと前菜なのか主菜なのか、温かいのか冷たいのか、

 

ぜんぜんわかんねー (笑)

 

つづく