「フルコース」っちゅーのは

「堅苦しい」とか「肩ひじ張らず」とか「敷居が高い」とか。

フランス料理って、そんなに疲れるイメージなんでしょうか。慣れてないだけなんじゃないの?オレに言わせればちっとは緊張する位がちょうどいい。リラックスしすぎたら居酒屋になっちゃう。そもそも"敷居が高い"という意味は、恩師に失礼をしたから訪問しづらいっていう意味でしょ?それを言うなら「ハードルが高い」だと思う。それはさておき、気軽にフレンチを愉しむには、場数をこなす前にフランスの文化を知る必要がある。フランス料理もフランスの文化です。このカルチャーに興味を持たずにフレンチが解るはずもない。そもそもフランスにはフルコースって言葉が無いのに店側がこのワードを乱発するから始末が悪い。そのせいかどうか定かではないが、グンマでは披露宴に出てくる、いわゆる"フルコース"っていうのがフレンチだと思ってる人も多い。

 

前にも触れたが「ムニュ・デギュスタシオン」というものがある。これは"味見コース"と言われ、店のスペシャリテで構成されていて、初めての来店客向けとして用意されている。もちろん常連さんが注文してもいいのだが、店の料理をコンプリートしてしまった馴染み客はその日に食べたいものを注文するし、他の料理は別の日に来店した時に食べられる。シェフがメニューに無いものを作って出したりもする。そういうお客さんはフランスのレストランでは"ソワニエ”と呼んで、他の客とは別扱いをする。

高級店に行くと、ほぼこのムニュ・デギュスタシオン1本で成り立っている。ワインはソムリエに任せればよい。値段はさておき、、

 

ここで、いわゆる「フルコース」ってヤツを私なりに分析してみる。細かく分類して、出てくる順番通りに列挙してみよう。

 

〇食前酒

1. アミューズ・ブーシュ又はアミューズ・グール

〇ワイン又はシャンパーニュ

〇パン(とバター笑)

2. オードヴル・フロワ

3. オードヴル・ショー

4. スープ又はポタージュ

5. ポワソン

〇ワイン

6. ヴィアンド

7. アヴァン・デセール

8. デセール

9. カフェ

10. ミニャルディーズ又はプチ・フール

〇食後酒(シガーを共に)

 

ノスタルジックな店では、ヴィアンド(肉料理)の前に口直し的なグラニテと呼ばれるかき氷が出てくる。なぜシャーベットと書かず"かき氷”って書いたかというと、グラニテというのはシロップを氷結化させたザラザラしたもの。シャーベットはフランス語でソルベと言うんだけど、これはソルベチュールという電動器具で滑らかに仕上げたものでデザートの分類になり、イタリアでいうジェラートのようなもの。ソルベ出したら口直しどころかそこで食事が終わっちまう。口直しをしたければ水を口に含めばいいし、ワインが同様の役割を担っているので、ぶっちゃけ、グラニテというものは現代ではあまり必要とされていない。

 

アミューズ。これは食前酒もしくは最初の酒と共に愉しむお通しみたいなもの。カトラリーを使うアミューズもあるけど、基本は手でつまむものだ。指が汚れる場合はフィンガーボールと呼ばれる指洗い器が登場するのだが、今、食卓にフィンガーボールは必要としない料理を考案する流れになっている。リラダンでは使い捨てのペーパータオルをご提供し、使用後すぐに下げている。これはおしぼりとは違うものだ。ちなみにアミューズとは"楽しみ"という意味で、ブーシュもグールも同じ"口"という意味。使い分けとしては、アミューズ・ブーシュは高級店、アミューズ・グールはビストロって感じかな。なぜって、ブーシュは人間の口のことをいうのだが、グールは人間の口と同時に動物とか魚の口とかを含めた「生き物の口」って意味。

 

食前酒。フランス人は予約したレストランへ向かう前に、近場のカフェやバーで済ませたりする。お酒が強くない人は低アルコールの代表格であるビールや、キールなど弱めのカクテル類。酒に強い人はアメールピコン、ジン系カクテル、リカールやペルノーなどのパスティスも食欲を高めてくれる。レストランにバーが有ればそこで一杯やってからテーブルにつくけど、食前酒抜きでいきなり始めてもいい。言うまでもないけど、ここでコーヒー飲むバカは居ない。だ・か・ら、「先持ってきて」はだめって言ってるの。

 

前菜。オードヴルは時にアントレともいう。冷たい料理と温かい料理があり、どちらかひとつ、又は両方、又は冷前菜を続けてもいいし、温前菜を続けてもいい。フランスにはティエドという生温かくぬるい料理もある。ガストロノミーの世界では基本、冷、温どちらも用意するのが通例だ。

 

スープ。これが厄介でね~。コースにはスープが付き物って思われてる。え?ちがうの?って声が聞こえそう。なんでスープが必要なんでしょうか。ハラ減っててスープが無いと足らないから?えっとですね、そもそもスープは夕方とか夜遅い時に小腹を満たすものだから、フランスでは夜食のことを「スーペ」って言ったりする。あ、昔の話だけど。ガストロノミーの世界では、シェフの世界観をスープというカテゴリで表現することはよくあり、そういうクリエイティブな料理はこの理屈には当てはまらない。私が言うのは、「コースだからスープなに作ろう」というシェフが居るわけで。いいのよ別に。ただ、スープは魚料理の前、という固定観念が、いったいどこからきているのか。少なからず私は知らないのである。

スープ・ア・ロニオン・グラティネ。いわゆるオニオングラタンスープってやつ。これこそ一皿完結(皿じゃないけど)料理であり、

熱々の中にコニャックをひとたらしすれば睡眠導入剤にも適している、これぞ夜食!っちゅーフランス料理である。クルトンを載せて、スイスのチーズをこれでもか!って位盛ってオーヴンで焼成する。食べてる途中でちぎったパンを投入するのもアリだ。これだけでハラもココロも満たされる。そういう料理。だから、コレをフルコースに組み込むという愚行は決して犯してはならない。

スープ・ド・ポワソン。その名の通り、サカナのスープである。ブイヤベースもサカナのスープ。煮込まれた魚達は私に言わせればおまけ。主役はうま味のかたまりである液体の方。やはりパンを投入して、たっぷりと吸い込んだソレを食す。ルイユは互いに引き立て合う仲人のような存在。

魚料理。どうして肉が後で魚が先?それは、料理の順番には軽いものから重いものへ、という不文律があるからだ。これはワインにも云える。だから、オニオングラタンスープやスープドポワソンの後に魚料理っちゅーのもささやかな疑問が残るわけ。まあ、そういう食し方を店側が設定しなければいいだけで。要するに、コースというのはそこまで考えて構成されているから、お客人は安心してムニュを注文できるのである。

肉料理。魚料理で終わらなければ主菜といわれる。焼いてあるのか煮てあるのか、とにかくこれがメインディッシュと云われるもの。

アヴァン・デセール。なかなか耳にしない人が大半だと思う。これは、メインのデザートの前に出されるちっちゃいデザートだ。グランメゾンでたまに見かけるのがコレ。ひとくちふたくちで終わる量なんだけど、お!と思わせる、粋なヤツが出てくる。

デセール。メインのデザート。今ではアシェット・デセールと呼ばれているので、ゲリドンサービスでお客が選ぶスタイルは古いと思われる。でも私は後者が好き。だから、リラダンではゲリドン(ワゴンサービスのこと)じゃないけど、選べるスタイルも取り入れている。フランスのミヨネー。アラン・シャペル。ゲリドンで現れたガトー達は華が有って。あの頃のフランス料理界、私は憧れてたし、今でも崇めているフランス。温故知新。

ミニャルディーズ又はプチフール。小菓子のこと。デザートが終わり、テーブルの上はきれいに片付けられ、コーヒーが運ばれてくる。間を置かずそっとテーブルの中央に置かれる皿には、かわいらしい小さなお菓子達が並ぶ。お客人はもう満腹で、「わーステキ!でももう食べられなーい」と悔しがる。持って帰りたいんだけどとサーヴィスに問えば、高そうな小箱に詰めてくれたりする。グランメゾンでお決まりの光景である。フランスでは、コーヒーといえばエスプレッソである。皆がよく知るブレンドコーヒーは、フランスでは朝食の時に飲むもので、コーヒーは基本、エスプレッソ。イタリアのソレに比べると液量は多いのがフランス流。砂糖を多めに入れて飲むのが模範解答。フランス人はこうやってコーヒーはコーヒー、デザートはデザートで楽しむから、ケーキセットは理解出来ないのだ。反面、日本食のように味噌汁と同時に白いご飯を複数のおかずで楽しむ食べ方は理解に苦しむ。初めて目にするフランス人は、まずおかずを平らげて、次に味噌汁をやっつけて、最後に残った白いご飯を指さし、

 

 フランス人:「コレはどうやってたべるの?」

 

そんな笑い話も昔のこと。和食を前にして「フォークもってきて」なんて言わない。不器用ながらお箸を持ち、ワクワクしながら日本を愉しむ。他国の文化をナチュラルに受け入れる柔軟さを、グンマのオトコ達も真似してほしいもの。

ミニャルディーズとは「かわいらしい(もの)」という意味で、プチフールは「小さな焼き菓子」という意味。お菓子の中に例えば、ギモーヴとかオランジェットなどが混ざってる場合は前者のミニャルディーズを名乗り、チュイル・オザマンドゥやビスキュイなどの焼菓子のみで構成されている場合は後者のプチ・フールを名乗る。

 食後酒。フランス語ではディジェスティフという。アペリティフと決定的に違うのは "食卓では飲まない" 。え?じゃあどこで飲むの?まずはテーブルを離れるのである。別室、例えばリビングとか、夏であれば外のテラス、冬だったら暖炉の前がいいかもしれない。高級店では食後酒を愉しむ為の部屋が有って、そちらへ通される。ソファが有って、シガーが愉しめるようにサンドリエ(灰皿)が置いてある。シガーというのは、いわゆる"葉巻"なのだが、これは実は煙草であってタバコではない。ん?どーゆー意味?タバコというのはみんなが知ってるアレだけど、シガーというのは四六時中スパスパ吸うものではない。時間の中にゆっくり身体を置く。歩きながらとか仕事をしながらとかではなく、最低でも30分以上、用事も無く、電話もかかってこない、テレビも見ない。そこにあるのは香り高いシガーの煙と静まり返った部屋、居るのは一人、もしくは同席した友人達。食後酒と共に料理の余韻を文字通り"反芻"する。部屋に通されると、ソムリエが木箱を持ってくる。ワインと同じで、シガーというのは乾燥や湿気を嫌う。温度管理をされたそれは例えばダビドフとかコイーバが高級葉巻として有名だ。ソムリエはお客人が呑んでいる食後酒を拝見し、ご要望があれば銀のトレーに同じ酒を数滴垂らす。そこへシガーを両手でコロコロと転がし、香りを移す。カット方法はどうする?お客人に尋ねるソムリエ。まっすぐか、斜めか、細目か太目か。シガーカッターでカットし、火を点けてから手渡してくれるだろう。

火を点ける際、使用厳禁なのはリン系、硫黄が多い市販のマッチ、それとオイルライターだ。炎が燃える瞬間の硫黄、オイルの匂いがシガーに移ってしまうから。シガーというのはタバコと違ってなかなか火が付かない。一般のマッチは棒の部分が短かすぎて、火が点かないうちにマッチが燃え尽きてしまう。その為、シガー専用のマッチは燃え尽きにくい材質の木を使用し、充分な長さもあり、硫黄分も抑えて作られている。マッチ自体も湿気が多い日は点きにくいのだが、イライラせず、すべてを受け止める。そういうゆとりが、シガーをたしなむには大切だ。ちなみに、1本のシガーが燃え尽きるにはおよそ40分かかる。

よく知らない日本人がやる所作に、シガーの灰をタバコのようにポンポン叩いて落とす人がいる。これ、わかってねぇのがバレる。じゃあどうすればいいの?自然に落ちるのを待つんです。灰は"保温"の役割も担っており、むやみに灰を落とすのはシガーに良くない。灰が落ちるまでサンドリエに置き、煙を眺めるのもいい。すると、おそらく火が消えてしまうだろう。そしたら、葉巻に手を伸ばして、いかにも自然に落ちたかのように灰を押し置いてから再び火を点ける。時が止まるかのようなシガーのたしなみは、追われる日々から遠く離れた憩いの世界なのです。

実は、そこまで時間が無い人の為に「シガリロ」というものがある。タバコとほぼ同じ細さと長さのノンフィルターで、すでにカッター処理がなされている。S.Marie氏が食後に1本、あ、これはテーブルでだが、「ロミオ・イ・ジュリエッタ」というシガリロをやっていて。吸い方がラフなところを含めてカッコいいのなんの。私?もちろんマネしましたよ(笑)

シガリロの持ち方と吸い方は、毎晩目の前に氏が座るワケだからね。門前の小僧、習わぬシガーをたしなむってやつですよ。

ここでもうひとつ意外な真実がある。タバコは煙を肺に入れるけど、シガーは基本、ふかすだけ。口に吸い入れた煙をゆっくり外へ。結局香りを嗅ぐわけだから肺に入るんだけどね。ちなみにキューバの葉巻工場。くわえ葉巻で葉を巻くおばちゃんの作業姿。これは間違いなく肺に入れてるね。トゥールーズのリブレリー(本屋)で立ち読みしたシガー本。買ってくればよかったぁ。。

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リラダンでは、スープ・ア・ロニオン・グラティネ、スープ・ド・ポワソンはコースには組み込まない設定になっている。他のスープ料理は前菜としてお選び頂けるようになっているのは、これでおわかりいただけたと思う。

 

つづく