ドレスコードとは

いよいよ冬っぽくなってきた。寒っ

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フランスのパリから北へ車で40分ほど郊外にあるリラダン市に私が身を寄せたのは、恩師の杉渕さんに紹介してもらったフランス人のMonsieur S.Marieさんに「メンドウみてあげるからおいで」と言ってもらえたから。

 

 私:「労働ビザ、どうしましょう」

 

 杉渕さん:「そんなもん、行ってから考えればいいんだよ」

 

航空会社はスカンジナビア航空。行きは日付けが印字されているけど帰りは白紙。有効期間1年のオープンチケットだ。成田空港。搭乗手続きは2時間前からだが、早めにいくと良いことがあるって聞いたから3時間前にアジャンスへ。廻りを見渡しても誰も居ない。私は女性が座るカウンターへ歩み寄る。

 

 私:「こんにちは。ちょっと早く来てしまって」

 

 女性:「大丈夫ですよ。チケットを」

 

私は黄色の搭乗券(エコノミークラス)を女性に手渡す。

 

 女性:「ビジネスクラスに空きがあります。そちらでよろしいですか?」

 

 私:「え!いいんですか!」

 

エコノミーとビジネスの差額がいくらなのか知らないが、私は嬉しさを隠せない様子で女性にお礼を申し上げると、女性はとても勝ち目のない笑顔でチケットを返してくれたのだった。その後、搭乗開始のアナウンスが流れ、機内に乗り込む。カーテンで仕切られた前方部のエリアへ案内される。クロークに上着を預け、シートに収まる私。ゆったりと大きく、後ろを気にせず背もたれを倒せる。外国人のビジネスマンが隣りに来て、互いに会釈をする。彼が手にするチケットは青色。正当なビジネスチケットだ。カトラリーはプラではなくボーンチャイナ。アルコールは無料。吞み過ぎない様に気を付けよう。

外国というのは、服装で物事が決まることがよくある。バックパッカーやラフな洋装も楽しいけど、私は穴の無いデニムと義弟にもらったブルーストライプのブランドシャツ、それとジャケット。せめてジョンロブ履いてたらビジネスクラスに相応しかったと思う。ヤンキースが強いのはミッキーマントルが居るからではない。相手が縦ジマのユニフォームに目を奪われるからである。

 

この高崎では、夏の季節になると目を覆いたくなるシーンに出くわす。酷いのはオトコの服装。ビーサンに短パン。これがモナコだったらサングラスすればカッコいいんだけど。まぁよくその恰好で外歩けるよ。オトコ捨ててるね。夏になればこの格好があちこちで猛威を振るう。そろいの支度で八木節音頭?似てなくもない。群馬県が最下位でも仕方ねぇよ。だってさぁ、

 

オレが寝る時とおんなじ恰好だもん。家から出ることを想定していない、いわば"部屋着"です。東京や埼玉、長崎を含めても群馬だけ。私は"群馬ファッション"って呼んでる。家と外とおんなじカッコウだよね。帰宅したら着替えるわけ?ソレ脱いだらハダカじゃん。コレでリラダン来るんだぜ?マジやめてくれ。

これがね~断れないんですよ。ステテコとか作業着だったら断われるんだけど、カッコ悪いってだけでは理由にならないんです。で、こういうのに限って女性を通路側に座らせる。本当です。

要は、"まわりのお客様が不快に感じないこと" がドレスコードなんです。服装はともかく、香水や家臭もだめ。厨房に居てもわかるほど匂います。漂わせている本人はわからないんだろうけど。かく言う私も、秋が終わりに近づいた11月中旬、今朝は寒いかなと長そでのインナーをタンスから取り出して頭からかぶった瞬間、

 

 私:「うわっ!家臭がするっ!」

 

急いで脱ぎ捨てた私は洗濯機に放り込む。はぁはぁ、あービックリした。もしかしたら洗濯しないで畳んだかな。危ねぇ大切なのは、廻りに迷惑をかけないように心がけること。

 

渡仏する前にまず欠かせなかったのはフォーマルウェアである。必要になるシーンは必ずあるからだ。ただ、一年の滞在に必要な服をあれこれスーツケースに入れたら膨大な量になるので、種類を絞って身軽で行きたかった。それで、カジュアルでもフォーマルでも着廻せるジャケットを出国時に羽織っていただけ。そういう成りに身を包んでいればポリスに職質されることもないし、イミグレで手荷物ひっくり返される可能性も減る。実際、フランスを出国して日本に帰ってこられたもん。だってほら、私、不法滞在だったから。出国カウンターでパスポートをパラパラめくったらバレて即拘束。その後収監されたのは間違い無い。私?髪も成りも整えて挑んだし、日本人だから表紙めくって写真確認するだけ。堂々としていれば誰も日本人を疑わない。でもそれは諸先輩方々が品行方正だったから。先人達が積み上げた日本の信用を落とさなかったのはホッと胸を撫でおろす思いだ。その後、杉渕さんと二人で笑い合ったのは、今となってはいい思い出である。

 

フランスという国は人種のルツボと言える。3代遡っても両親そろってフランス人、というフランス人はなかなか居ないっていわれる。おじいちゃんがドイツ人だったり、おばあちゃんがスペイン人だったり。パリを歩いていても、肌の色も髪の形も多彩で、でもしゃべってるのはフランス語。私が歩いていても誰も振り返らないし、カフェでビール飲んでても、隣りに座るオジサンとサーヴィスのお兄さんは分け隔てなく私に「Bonjour!」って言う。パリジャンだろうがニッポンジンだろうが特別扱いしないのが、私がフランスを大好きになった大きな理由でもある。とはいえ、そんなフランスでも人種差別は有る。ボルドー駅からTGVでパリ、モンパルナス駅に到着した夜、タクシー乗り場の行列に付いた私は、ぽつり、ぽつりとやってくるタクシーを見送りながら、あと〇人、、と自分の番を数えていた。やっと次の次って時に、白のプジョーが滑り込んできた瞬間、前に居たマダムが振り向きざま私に、

 

 マダム:「アレジ!(行って!)」

 

え?なんでオレにゆずる?ワケ解らないままマダムにお礼を言い、プジョーに乗り込む私。

さあて、理由はすぐにはわからなかった。目的地はゲルソンというホテル。TGVに乗る前に予約したホテルだ。運転手にホテルの名を伝えるとオーケーわかったと言ってプジョーは走り出した。で、なかなか到着しなくて、パリをぐるぐる廻り、、

やっと到着。

 

 私:「どうしてこんなに時間がかかったの?駅からかかりすぎなんじゃない?」

 

 運転手:「ホテルの名前違う。ゲルソンじゃない。ジェルソンだよ」

 

私の発音が違うからわからなかったんだと運転手は言う。確かにGersonはジェルソンって発音するね。でもさ、目的地を告げた時に「わかった」って言ったじゃない。納得いかないまま私がトランクから荷物を取り出そうとすると「ムッシュ!私が出すよ」って言う。いやいいよ。大丈夫だよ。運転手は奪うように荷物を引っ張り出して地面に置く。で、手を出してチップちょうだいモード。あ~わかった。だからあの時マダムがオレに譲ったんだね。この時の運転手はアルジェリア人。アルジェリア系がそうだとは言わないけど、このマダムのように、北アフリカ系を警戒する人が存在するのは確かだ。

 

オテル・ジェルソンはソルボンヌ大学にほど近いカルチェラタンにある。間口は狭くて、上は7階まであったかな。唯一のエレベーターはスーツケースと人が乗ったらもう誰も乗れない小ささだ。アルジェリア人と別れた私は受け付けに居るメガネの男性にチェックインを申し出る。予約したシュンイチですが、、

 

 男性:「10日間のステイですね。〇〇フランです」←当時の通貨はフランスフラン

 

 私:「カードで払います」

 

 男性:「現金じゃないと、この料金では泊まれません」

 

 私:「現金そんなに無いですよ」

 

 男性:「近くにATMありますよ。場所教えます」

 

しかたない。じゃあ荷物ここに置いておきますからちょっと待っててください。時刻は22時を過ぎて真っ暗、はやる気持ちを抑えながら私はホテルを出た。しばらく先にクレディ・リヨネを発見。あ、フランスでよく見かける銀行です。フランスのATMって歩道にむき出しなんだよね。横から覗かれそうだし現金すられそうだし。なんでああなんだろね。治安が良いとは言えないカルチェラタンだぜ?しかも夜遅く、、

私はインターナショナルキャッシュカードを滑り込ませて、暗証番号、金額を入力。すると、、

 

 私:「なんでエラー?」

 

私は同じ手順を繰り返すのだが、答えは「お取り引きデキマセン」の表示。まーじーかー 心臓が大きく鳴ってるのがわかる。俗に言う"途方に暮れる”っちゅーヤツ。フランス語に訳すと「セパヴレ」かな。まあここで冗談にしている時点でなんとかなったワケです。どうやって解決したかというと・・

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出金額を減らしてみた。

 

 私:「出たぁ!」 ←よかったよぉ

 

一度に3,000フランを出そうとしたからダメだったみたい。金額を1,000フランにして三回。当時のレートで7万5千円。ジェルソンの宿泊料金の他に、お酒と夜食を買ってホテルに戻ろうと思って。クリニャンクールにも行こうと考えてたから。蚤の市って基本現金取引だしね。

遅い時間帯だったから出金額が制限されたのかな。ATMのどこかに書いてあったんだろうね。

ホテルに戻り、チェックイン。これで四つ星だってんだからオドロキだ。通された部屋は4階。バス付き。11月のパリは寒くて、オイルヒーターがあるけど触れるとあったかい程度。風呂に入る。しかし、なかなかお湯が出ない。私が内線で電話をすると、別の部屋に交換するとのこと。だがその部屋はバス無しシャワーのみの部屋。それでもいいですか?と言われ、お湯が出ればそれでいいですと応えてのち、従業員がやってきて部屋チェンジ。お湯は出るようになったが、ヌルい。。

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ドレスコードというのはレストランに限った話ではなく、披露宴や葬儀場など、ノータイやジーンズはダメと言われる場所がドレスコードを要求される場だ。その場の雰囲気をこわさないように出席者はそれを要求される。フランス料理店に限っていうと、完全予約制のレストランにはドレスコードがあると思ったほうがいい。フランスではコンフィルマシオンといって、事前予約確認の義務が客側に有って、予約を入れた時点では仮予約。後日、「予約した〇〇ですが、当日は必ず行くのでよろしくお願いします」と、再度電話を入れる必要がある。コンフィルマシオンを怠ると自動的にキャンセルになる仕組みになっている。一方、予約制ではない店は、フラッと立ち寄ってもいいよってことだから、デニムOKと思っていい。とはいえ、TPO(時間・場所・シーン)に注意を向けることは大切だ。ゆえにリラダンでは、注意を向けない人は断ることがある。それと、群馬ファッションはカンベンしてくれ。。 

 

つづく