ナイフとフォークの使い方

もうすぐ夜が明ける。

フランスは時差から思うに今頃ディナーの真っ最中かな。シャトーデュテイルの夜はどうだろう。もしかしたら早めの食事が終わり、クロディはヴァン・エ・フランスの雑誌を手に取り、暖炉の前でアロンジェしている。

 

 クロディ:「あ~、おなか一杯」

 

 グザビエ:「休んでて、マシェリ」

 

 クロディ:「ありがとう、モンシャ」

 

マ・シェリとはフランス語で"ぼくのかわいい人”という意味で、モン・シャは"私のネコちゃん"という意味。フランスでは夫婦の呼び合いは大体コレ。対象が小さかったりするとモンプチ(私のおチビちゃん)って呼ぶ。そういえば昔、日本でマシェリっていうシャンプー売ってたな。モンプチ、、

 

フランスに限った話ではないと思うが、フランスでは家事は夫婦二人で行う。シャトーデュテイルでの食事の後片付けは基本グザビエだった。料理はクロディが作り、準備はグザビエの役割で、私は気づいたことを手伝ってた。三人でスペインのサンセバスチャンへ車で何度か行ったけど、二人は必ず手をつないで、私は数メートル後ろをついて行った(笑)。おいしいビストロがあるんだけどシュンイチどう?って言われて連れられたのは魚市場の二階。え?ここレストランなのね。買い物客や仕入れに来たシェフがランチを済ますんだけど、ほとんどみんな呑んでてワイワイしてる。スペインもなかなかいいじゃない!

 

スペインってフランス以上に魚介を食す民族。フランス人があまり口にしないタコもアヒージョにして食べるし、驚いたのはカメノテ!日本のソレは小指位の長さなんだけど、スペインのは15センチはあろうかという長~いカメノテ。カメノテの食用部はまさにこの手首のとこなので、食べ応えは充分。でもね、、

 

スペインの魚市場って生臭いんです。日本の市場みたいに潮の香りが漂ってるわけではないので、新鮮なものがあったとしても臭いでわからない。外国って基本野締めだしね。やっぱり魚大国ニッポン。海の物の取り扱いは世界一だと思う。事実、ずいぶん前、フランスから一流シェフ達が魚の処理を勉強に来ていた。活け締めは日本が誇る技術だから。グザビエがサーモンを手に、

 

 グザビエ:「シュンイチ、これ、サシミで食べられる?」

 

 私:「う~ん、食べられないってことはないんだけど、、」

 

日本の鮮魚はホント、世界に誇れるね 。

・・・・・・・・・・

ナイフとフォークは、あまり問題のある使い方は見かけない。私を含め、世間ではフツーに使っている。強いて云えば、ナイフとフォークを左右持ち替えるのはやめたほうがいいのと、リゾットはスプーンではなくフォーク。グリップをエンピツみたいにつまんで使っている人を見かけるけど、あれでは切れるものも切れない。グリップはしっかりと握り、肉は両手をクロスさせるようにして切るのがフランス流。料理をすべて切ってから、フォークを右手に持ち替えて片手で食べるのはやめたほうがいい。ナイフは絶対舐めないことと、フォークに刺した料理に口を近づけるのではなく、口元へ料理を運んだ方がエレガントに見える。フランス人はエレガントというよりは、ダイナミックな食べ方だったのが印象的で、

 

 私:「狩猟民族って感じだね」←目を見張る

 

農業国フランスとはいえ、やはりジビエ大国。

 

なぜリゾットはスプーンじゃだめなの?それはリゾットが"パスタ料理"だからである。フォークじゃリゾットをすくえないじゃん!と申される方にはお伝えする。そういうリゾットは出来損ないだから、お客人の問題ではなく料理人の技術に問題がある。正しいリゾットは、ソースがコメと一体になっており、フォークですくい切ることができる。ちなみにリゾットをスプーンで食べるのは、イタリアでは幼児だけに限定されている。

フランスでは「スープを飲む」とは言わない。スープを"食べる”のである。飲むはボワ、食べるはマンジェ。スープはマンジェなのだ。なぜ飲むではなく食べるのか。スープという料理は味噌汁みたいなサイドディッシュではなくて、古い昔、主菜だったからだ。鍋にいろいろ入れて煮込む。それを毎日、継ぎ足し継ぎ足し、ドロドロになっていく。これはもう飲むのではなく食べるもの。全部無くなったらまた水を沸かして煮込む。そこへ固くなった古いパンを放り込む。パンは柔らかくなり、それを"食べる”。その名残りが現代のクルトンだというのは意外に知られていない。スープの中にちぎったパンを放り込めば、そのパン切れがおいしくてね~。この食べ方は現在のフランスでも見受けられるけど、高級レストランでは控えたほうがいい。あ、リラダンではオッケーですヨ(微笑)。

イタリアのビスコッチョも然り。あの固いビスコッチョをガリゴリ食べるのではなく、ぬるいカフェラッテに浸し、ふにゃふにゃにして、ポタポタ垂れないように気を付けながら口に運ぶのがイタリア流。

フランス料理は「煮込み」が原点だ。ブイヨンは沸くという言葉が語源。洗練されて、フォンドヴォーやフォンブランがある。煮込むことでうま味を集約し、味が濃くなる。ミシュランの星を得る店でもフォンを仕込まない店が席巻しているが、私に言わせれば、フォンというのはフランス料理の根幹だ。なぜかというと、、あ、また脱線してる。

・・・・・・・・・・

リラダンでは、不自由な方をお見かけしたら食べやすい形にして料理をご提供しています。もしこちらが気が付いていない場合はお申し付けください。あ、それと、料理が終了したら、ナイフとフォークは右側に揃えてお待ちいただきたい。食べきれなかったり、口に合わず残したい場合も同様に並べていただければ下げます。

 

 

つづく