トロ永眠

朝9時32分 トロ永眠。

2021年11月27日 土曜日

16才。男。去勢済み(5,000円)

手のひらに載るほど小さくなっちゃった。

 

昨日に続いて、中島動物病院へ。利尿剤の注射を打ってもらう為に。借りてるクラブマンで。朝8時50分頃、仕込み作業を中断し自宅へ声をかける。Madameは9時40分頃に病院へ向かうという昨夜の予定でかまえていたので、え?という顔ののちに気を取り直して「わかった」と。トロを毛布にくるんで(前日、体温が35.1度で低かったので、中島先生からは暖かくしておくようにとアドバイスされている)、出口へ向かう時にトロがなんだかかわいい声で「にゃーん」「にゃーん」と二度言った。「え?なに?どーした?」と応じながらクラブマンに乗り込む。いつものトロの声と違う声。というか、やさしい声だった。中島動物病院へ向かう道中、グランヴューホテルへ左折する直線道路、第一車線は工事現場跡が有り、そのひとつに前走車の左ドアミラーが派手にぶつかった。そのまま走り続け、、「おいおいまじか?」なんか部品が飛んだぜ?いーんかね。走り去るコンパクトカー。・・・病院到着。誰も居ない。すぐ診察台へ向かい、トロを載せる。先生はいつものようにトロのしっぽを上に挙げ、体温計を差し入れる。34度。また下がった。注射を二種類打ち、来週またすぐ連れてくるようにとのこと。飲み薬、呑めればいーんだけどねぇ、と言われ、私は「ダメ元でやってみます」と申し上げ、先生は「一日二回、一錠を半分に割って。今日は(注射したから)いいから」私「明日からですね。わかりました。粉末状にして舌に載せたらだめですかね」先生「う~ん、アワふいちゃうんだよね、、苦いから」ああなるほど。あ、いくらですか?え?要らない?私は何度もお礼を言い、クラブマンに乗り込んだ。先ほど前走車が左ドアミラーをぶつけて走り去る付近に差し掛かると、後部座席からMadameの「トロ?どうしたの?吐く?」という声に私は振り返る。トロの口が半開きになっている様子を見た私は「病院に戻る!」と言いながらその場で大きくUターン。中島先生の所に引き返す。先客無し。すぐ先生の診察台へ。トロは力が無い様子。それを見た先生は1も2もなくトロの身体の胸廻りを両手で揉みだす。しばらくしてトロが「ガハッ!」と息を吐く。先生の心臓マッサージ続く。再び「ガハッ!」とトロがうごめく。先生の心臓マッサージ続く。「目が開いたまま、、」と何度も私がつぶやく。「トロ?トロ?」私はトロの頭をなでながら目を覗き込むのだが、トロは目を見開いたまま。まんまるい目。トロ、眼が乾いちゃうよ?閉じないと。「先生、目、開いたままです、、」私がそう言うと中島先生は両手を止めて、「眼、閉じなくなっちゃうんだよね、、」先生は指先でトロのまぶたを閉じる。「トロ!トロ!」私はトロの横顔に自分の顔を押し付けて、泣いた。

「先生、ありがとうございました」私はクラブマンへ戻る。帰る道中、後部座席でトロを抱くMadameに「今日は臨時休業にする。ご予約のお客様にはオレが電話するから」Madame「わかった」自宅に到着。死後硬直が始まる前に、身体がやわらかいうちに、トロの身体を丸く整えてあげる。お気に入りだった敷布団におトイレシートを敷く。まだあったかい。寝てるみたいで、じっと見ているとおなかと胸辺りが呼吸で上下している錯覚に。ほんとに死んでると思えない様子で、もしかしたら目を覚ますかもしれない、と注意深く見入る私。死んでもかわいいトロ。涙。

倉賀野のペット葬祭屋にMadameが電話。留守電。誠意感じず、別の業者さんに。今年の4月だったか、Madameの図書ボランティア仲間のSさんに「良かったよ」と教えられていた埼玉県川口市にあるペットセレモニー、美空(みそら)に電話すると、すぐに対応。午後2時半頃に伺いますとのこと。この時点で私は途中だった仕込みを片付けなければならないのでリラダンに戻る。ご予約いただいていたお客様にすぐ電話。事情をご説明し、アニュレ(キャンセル)にしてもらった。何度もお礼をお伝えし電話を切る。涙が止まっている私は淡々と作業。今日はずっと仕込みしよう。そうだ、オペラ作んなきゃ。チュイル・オザマンドゥも。あ、それよりもラルブル(バウムクーヘン)か。今朝、高崎総合卸売市場へ仕入れに行った際、ニコニコ感謝デーで賑わっていた売り場で富山の焼き鯖寿司買ったのを思い出し、二切れ食べる。仕込みが一息ついて自宅へ。私はトロのふわふわした身体に顔を押し付ける。涙でトロが濡れてしまうので顔を離し、両手で身体をなでる。寒いかもしれない。そう思った私はトロに小さな毛布を折りたたんで載せる。本当に寝てるみたいだ。外へ出る。クラブマンを見て、ああそうだ、車ン中、片付けないと。後部座席に丸まったままのトロのおむつや手提げ袋やらを見る。力なくドアを閉める。リラダンへ。・・・午後2時32分、美空の車がゆっくり駐車場に入ってきた。黒いハイエース。私はリラダン横のゼブラゾーンへ誘導し、バックで停めてもらう。男性が一人、私は名刺を交換。統括部長さんか。Fさん、早い対応ありがとうございます。今回はおせわになります。電源を借りたい?はいはい、こちらからどうぞ。なにで燃やすんですか?灯油ですか。900度で。1時間くらいですか?40分くらい。なるほど。準備にどのくらいかかりますか?5分ほどですね。わかりました。別れの時間が惜しいのでちょっと失礼します。私はFさんに温かい紅茶を手渡しながらそう言い残し、トロの所へ。トロ。トロ。Madameがトロの好物だったネコ草を口元に置いている。それどうしたの?そう、裏から摘んできたの。それだったらかつおぶしだよ。昨日あげたのが有るって?いやいや、開けたてでしょ!床下収納に買いだめしてあったかつおぶしまだ有る?よかった!それ持ってきて。Madameが手に持ってきた未開封のかつおぶしを私は受け取り、トロの横に置く。開けたてのかつおぶしはトロが大好きだった。レジ袋をガサガサいわせながら帰って来ると真っ先にトロがお出迎えしたのを思い出す。かっか要る?かっか欲しい?そう言うだけでトロは耳をピンっと立てて真剣な顔になったなぁ。まだ出してもいないのにもう解ってる。かりかりだけでは食べなくて、かつおぶしを上に載せてやると上のかつおぶしだけ食べるトロ。「かりかりもたべろよー(笑)」ってよく言ってたなあ。さあ、これからはすきなだけかっか食べてね。少し身体が固まってきたかな?いやでもまだやわらかい。かわいいねぇ。死んでもかわいいねぇトロは。我々を呼ぶFさんの声が。私はハイエースへ。バックドアが上に上がっていて、炉の扉から寝台が引き出されている。Madameがトロを抱きかかえて出てきた。寝台にトロを置く。私はかつおぶしの封を切る。トロの口元にかつおぶしを寄せる。Madameは口元にネコ草を束ねたものを置く。最後にトロ、もふもふさせてね。私は何度も何度もトロに顔をうずめる。トロから離れたあと、あ、すみません、もう一度だけ。トロの横顔に顔をうずめた私は鼻から大きく息を吸い込む。ああ名残惜しい。きりがない。さあ、もう行ってくれ。いや、行ってきて。ここで待ってるから。Fさんにうながされて合掌。焼香。トロは炉の中へ。

午後3時30分、火葬が終わる。炉の扉がうっすら開いていて、我々がやってきたのを見たFさんはそれでは、、と言いながら扉を全開し、寝台を引き出す。トロの身体が。ホネホネの、トロ。Fさんはとても丁寧にトロの身体の骨々を、どこの部位なのか全部説明してくれる。ノドボトケはホトケが手を合わせているように見える、、とか、シッポのホネは星の形なんです。。とか。シッポのホネにします、と私はFさんに。シルバーアクセサリーにトロのホネを入れたFさんが私にほら、と。ホントだー。星のかたちしてるー。これはいい。ひとつ3千5百円。大腿骨が一本、ほぼ完全体で残っていて、私はFさんに所望。まだ熱いですので気を付けて。涙を拭っていた青いタオルを私が差し出すと、Fさんはそっと置いてくれた。「この世とあちらの世界は違うので」と言いながら、長さの違うステンレス製の長箸を二本、Fさんは私に手渡す。骨壺にトロのホネを入れる。入れる。入れる。そして、それでは、これらのお骨はパウダー状にしてお返しいたします、とFさん。全てが終わり、美空の黒いハイエースを見送る私。・・・・・・火葬料金24,500円。元気だった頃は9キログラムを超えてたトロは、5キロを切ってたのでこの価格。あいつ、最後の最後は5千円安くしてくれたんだなぁ。セボネごつごつしてたし。後ろ足もずいぶん肉落ちてたし。それでもかわいいんだからなぁ。カワイイってだけで生きていけるんだからいーなーって、オレよく冗談言ってたっけ(笑)。


無いんだよねーなかなか。遺影ってやつ。やっぱりあの写真が一番良いね。厨房にずっと貼ってたあの写真。オレが東京行く前、とーちゃんどこ行くの?ってオレを見上げてる瞬間をスマホで撮ったやつ。おめめはまあるくて、アイラインはキレイに真っ黒で、ヒゲは長く白く、首あたりの真っ白な毛はもふもふ感満載で。プリンターに出力してA4のコピー用紙にプリントアウト。ハサミでトリミングして、ラミネーターにかける。それをキレイにハサミで切り取り、写真立てに。いいじゃん!Madameに「トロがかっか食べられるように、お線香が要る」と言われ、私は目の前のカインズへ。店内に入る前、紫色の小さなお花が目に留まる。サクラソウ。プリムラっていうんだね。そうだ、トロに買っていこう。私はプリムラを持って店内へ向かう。線香売り場。あ、ピカール。そうだ、もう無かったんだった。買い物カゴにピカール。なんで線香売り場にピカールがあるんだろう。おかげで思い出したよ(笑)。自宅に戻ると、トロの遺影にろうそく二本が灯されていて、Madameにお花とお線香を手渡す。トロの遺影と遺骨を前に座り込む私。ああ、荼毘に付すとこんなにも心が整理されるのだ。なんだか、横たわるトロを見続けるよりもラクになった気がする。

駆け足、だったなぁ。早かったけど、店休みにしたからずっとトロと居られた。お客さんの車が何台も駐車場に入ってきた。そのたんびに私は外に飛び出して、事情を説明。ご理解頂いて、皆様、ありがとうございます。おかげさまで、トロを見送ることができました。今では、自宅だけでなく厨房、そして私の腰に、いつもトロが居ます。こんなにカンペキな別れ方、無いよね~(ドヤ顔)。中島先生に心臓マッサージもしてもらったし、臨終にも立ち会ってもらえた。キレイでかわいいトロのまま送れたよ。みなさんのおかげです。本当にありがとうございました。しばらくは、いつまで続くかわからないけど、すきなだけ涙を流したいと思います。あ、さっき、酔いたくてリカール呑みました。旨い。オレにはワインとリカールが有る。トロ、いつも見ててくれ。そしてこれからもリラダンの招きねこになってね。素敵な16年間だったよ。ありがとう!  おわり 

 

おまけ:11月29日の月曜日。お昼前、鉢の木で御菓子を買う。そのまま中島先生のところへ。駐車場には車無し。よかった。先生と話ができる。車から降りると、気付いた奥様がすぐに先生を呼んでくれたのだろう、中島先生は入口までいらして私を迎えてくださった。先生の、すべてを承知しているかのような優しいお顔を見た途端、私の眼からいきなり涙が溢れてきた。先生、奥様、トロがおせわになりました。心臓マッサージ、ありがとうございました。あの日、トロを荼毘に付すことができました。これをみてください。トロのしっぽ。星の形でしょ?これでいつも一緒です。涙でうまく喋れなくてスミマセン。まだ話足りないけどもう行きます。中島先生、本当にありがとうございました。