13ème:「猫を抱く少女」

10月23日。

今日はワインとチーズを少し。その後、仕込み。

10月29日。

À Tokyo .

・・・・・・・

高崎に戻ったのは18時をずいぶん回った頃だった。関越自動車道の下り線が想定外の渋滞。3車線ともノロノロ運転、そしてついに停止状態に。停まってはノロノロ、、を繰り返す。事故か?と思ったらただの道路工事だったのは意外だった。。

その後、リラダンへ戻る前に冷たいビールでも買おうとベルクへ向かった

駐車場にクルマを停め、歩き出したところにどこからか「すいません!すいません!」という声が背後から聞こえて私が振り返ると、年配の女性が呼び止めていることに気が付く。え?オレ?

女性は自身の車の運転席に座ったままドアを開けた状態で私を呼び続けている。やっぱりオレか、、

私が女性の座る運転席まで歩み寄ると、

 女性:「クルマが動かなくて。さっき、おまわりさんが動かしてから動かなくて。クルマをぶつけてそれから」

 私:「まあ、落ち着いて」 

 女性:「車の座席が動かなくて。おまわりさんが乗ったから(ハンドルから)遠くて。でも動かなくて」

 私:「電動シートなんですよ。このレバーを前に動かせばほら、前に(座席が)動くでしょ?」

運転席が電動で前に移動する。背もたれも同じようにやって見せる私だが、

女性は手探りでもわからない様子。私はここ、ここですよ、とスイッチの位置を案内する。ああ、動いたぁ!とうれしそう。

私は女性に車から降りるよう促し、運転席に座る。ずいぶん古いセダンだ。なんだかスッキリしない家ン中って感じ。車内にモノが有りすぎだと思う。キーから長いヒモが垂れ下がってるのはなんで?ヒモを足で踏みそうになって、

 私:「このヒモ、危ないから外しますよ。脚に絡まりそうだし」

 女性:「カギと腰を結んでいて。無くさないように」

 私:「それは危ないです」

私はヒモを外して女性に手渡す。

サイドブレーキがペダルタイプで、解除する時は手元のレバーを引く。私が説明すると、

 女性:「だからクルマが出なかったんだ、、」

おいおい。

 私:「Dレンジの状態ではエンジンかかりませんよ。Pにしてからキーを回さないと」

サイドブレーキ使ってないのか?と考えながらエンジンをかけてみせる。

 私:「手元のレバーを引いてから(シフトを)Dにして。ブレーキペダルから足を離せばクリープ現象でゆっくり動き出しますから」

じゃあやってみて。と、私は女性と運転席を代わる。

 女性:「自動車屋さんですか?」

 私:「一般人です」←この返答もちょっとヘン

あ、待って!

 私:「シートベルト締めてっ」

ふぅ・・

廻りにあんだけ人が居るのになんでオレ?

そんなにハードル低いかな。。

女性の車を見送り、私はベルクの店内へ。ざっと野菜売り場を眺めて(職業柄)から、IPAを3つ手に取り、レジへ。

リラダンのカフェテーブルに座ると、さっきまで東京ミッドタウンに居たのがウソみたい。

良い時を過ごせたのだろうか。

色々と反省し、想いにふける。

たかがビールなのに酔いが回るのが早く感じた。

・・・・・・・

日本を捨て、フランスで骨を埋める決心をしたフジタがこの頃に描いたのがこの作品である。「カフェ」「美しいスペイン女」もこの時期だ。

"抱く”というより“掴む”という表現がふさわしい。女の子は膝の上に猫を仰向けにし、アタマと尾の付け根をわしづかみにし無表情。だが猫はそれが良いようで、少女に全身を預けている。私がフジタだったらニヤニヤしながら描いちゃう。

背景はカルチェ・ラタンの白い家々が並ぶ。これはフジタが気に入って、自分のアトリエに同じ構図の風景画を置いていた。

パリのカルチェ・ラタンは学生の街。学校が有り、映画館があり、本屋や文房具屋もたくさんある。アルジェリア系だろうか、肌の黒い男性がシュラスコを道で売っている。買って食べようとは思わなかったけど。

この辺りにクスクス専門店「シェ・オラス」という名のレストランが有って、私は帰国前に何度も通った。冬のパリでここに行ったら安くて腹一杯になって、身体は暖まるし最高だった。日本に帰ってから「クスクス屋をやりたい」って恩師に言ったら「バカ言ってンじゃないよ」って言われてw

 

クスクスは私にとって今でもフランスのソウルフードなのだ。

あー食べたくなってきた。

 

つづく