「サラ・ベルナールの世界」 Prologue

9月17日の月曜日。

敬老の日で祝日、リラダンは通常営業だ。大した仕込みも無い朝、早めに起きて細々とした仕事をこなす。天気が良いので、厨房で使うマットを5枚、外の駐車場でゴシゴシ洗って干す。しばらくサボってたな・・

・・・・・・・

連休前の土曜日、ランチが終わって夕方、納品に来た取引先に「話が違うだろ~」とまくし立てていたら、その後ろからソワニエのアーさんが「コンチワ~」と。私は一気にクールダウンしたのだった。

すぐ帰るからと繰り返すアーさんを私は強く引き留め、カフェテーブルへ誘う。エスプレッソ(アーさん用)とグラスの赤(私用)を持って席に着く。

藤田嗣治展のチラシを手にするアーさんに私は「図録、ご覧になりますか?」と厨房へ走る。まさに昨日、朝日新聞から送られてきたばかりだ。巻頭の「はじめに」しか読んでない新品である。アーさんは図録を開きながら、

 アーさん:「行きたいけど、なかなか、ね~(笑)」

 私:「あ、じゃあこの図録差し上げます。奥様とどうぞ」

アーさんには数年前、私がアマゾンフランスでどうしても入手出来なかった料理書を、代わりにフランスから取り寄せてくれたことがあった。いくら忘れっぽい私でも、あのご恩は忘れるものか。

アーさんが遠慮するのを、私は半ば押し付けるように図録を差し出した。

 アーさん:「実はさっき、“コレ”のレセプションに出席してきたんだよ」

 私:「コレ、今やってるんですか(驚)」

テーブルに置かれたのは、この日から始まった群馬県立近代美術館サラ・ベルナール展の招待券。

 アーさん:「コレ、あげるよ♪」

 私:「わぁ!ありがとうございます」

これは行くしかないでしょ。

 

つづく