1er:「"サラ・ベルナールの日” メニュー」

翌日の16日。

ランチが終わった14時過ぎ、ソワニエがまだ店内にいらっしゃるのをそのままに、私は一路、群馬県立近代美術館へクルマを走らせた。天気は良く、行楽に出掛けた車で道は混んでいて、到着した「群馬の森」の駐車場もほぼ満車状態だ。想定内だが。

クルマから降り、美術館を目指して歩き始めた私は、15時を過ぎているからか、駐車場へ向かう子連れの人々とすれ違う。案外、この時間帯に訪問するのは正解だったのだろうか。

美術館の入口ではスマートフォンで撮影する人も居たが、駐車場が混んでいたのは来観者ではなくて、群馬の森でピクニックを愉しむ人々によるものだろう。開催2日目なのに、連休の、暑くもなく、良い日であるにもかかわらず意外に人の少ない展内で。

私はアーさんから頂戴した招待券を入口で示し、静かな館内へ、、

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1896年12月9日の水曜日。サラ本人が決めたといわれるこの日が“サラ・ベルナールの日”となった。もしやこの日を含めたことで今回の開催期日が決定されたのだろうか。

記念すべき第一回目、ジュエリーデザイナーのルネ・ラリック(René Lalique)が記念メダルを制作して来場者に配ったという。今回、当時のメダルは展示されなかったが、メダル制作に使われた「型」が紹介されている。ミュシャ(Alphonse Mucha)による記念冊子も同時に閲覧できる。当時、食卓に配された献立(Le Menu)が書かれた画があった。タイトルがその作品名である。

 Menu:Huîtres d'Ostende (オスタンド港の牡蠣)から始まり、前菜はAnchois,Beurre,Radis,Saucisson(アンチョビ、バター、かぶ、ソーセージ)、ルルヴェにTruite saumonée froide sauce verte(紅マスの冷製 グリーンソース)、アントレでCôtelettes de Prés-Salée aux Pommes frites(プレサレのコートレット フライドポテト添え)、Poulardes du Mans à la Sardou(マン産肥沃鶏のサルドゥ風)、Spoon au Georges Goulet(ジョルジュ・グーレ風スプーン)と続く。

主菜はFaisans Flanqués de Perdreaux aux Truffes(山うずらのヒナ トリュフ風味の、野菜を添えたキジ) ←? 

誤訳が有れば申し訳ないが、このまま進めたい。

Pâté de foie gras Grand-Hôtel(グラン・トテル風フォア・グラのパテ)、Salade à la Parisienne(パリ風サラダ)。そしてアントルメがGâteaux Sarah(ガトー・サラ)。その後、冷菓にBombe Tosca(トスカーナ風ドーム状アイス)、デザートはCompotes de fruits,Patisseries(果物のシロップ漬け、お菓子)と続く。ふぃー。。

ワインがまた凄い。シェリー・ゴールデン、シャブリ・ムートンヌ、サン・テステフ・カラフェ、シャンベルタン1884、シャンパーニュ、、

最後、コーヒーとリキュール、で終わり。さて、このあと、私の拙い料理解説へと続く。

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フランス料理の、コースというのはひと昔前まではアミューズ、前菜(1~数種)、スープ(ポタージュ)、魚料理、グラニテ、肉料理、デザート、コーヒー、、という古い解釈がまかり通っていた。ここ群馬では、フランス料理っちゅーのはこーゆーモノだと思われている気がしてならない。いいかげん、卒業してくれんだろうか。。

それはさておき、このムニュ(献立)にもあるように、時代によって食文化は変化するものである。前菜の次に出てくるルルヴェというのが現代における前菜に当たり、この時代のオードヴルとはHors-d'oeuvre=食事前の入口の外という意味であり、正餐の外(そと)に位置するモノであった。

スマホが席巻する現代になっても、解釈のブレを起こしそうな名残りは有る。例えば、"アントレ”というのは前菜のこと?それとも主菜のことを指すの?

私の場合、アントレと言えば主菜のことを言うのだが、どうしてそう思うのかというと、前述のサラ・ベルナールの献立にもあるように、アントレは"主菜の前に供する入口”という意味がある。この時代、主菜は“ロースト料理”のことを言い、その前の肉料理はあくまでも主菜の入口という意味なのだ。時代は変わり、今では肉料理を食してからさらに肉の丸焼きを食べる習慣は無くなって、肉料理=アントレという言葉だけが取り残されているワケである。ただ、このアントレという言葉がコース料理の入口という意味合いで取られる為に、現代の食習慣から「前菜」という意味で使われている。ちなみにフランスでは、店のドアや自動ドアには通常、“Entrée(入口)"と書かれている。

で、アントルメという言葉だが、現代ではデザート(お菓子)のことを指し、クぺ(カット)されていない、ホールケーキのこともいう。本来、アントルメというのは“肉料理とデザートの間(アントル)に供するもので、いわゆる"野菜料理”のこと。その名残りでアントルメティエというのは現在でも「野菜係」を指している。希少な例だが、ステーキを食した後にグリーンサラダが供されるお店が有る。ある意味クラシカルであり、伝統を守っているとも言える。時代に即しているかどうかはさておき。。

 

つづく