8月4日と5日は高崎まつりだったが、リラダンは高崎駅周辺の喧騒からほど遠い場所に位置している。でも、
初日の花火の音は、厨房で動く私の耳にまで届いていた。例年、手が空いた時に外へ出て、西の空を眺める
と打ち上げられた花火を観ることができるのだが、今年は忙しく、大切なソワニエもご来店頂いていて、そ
んな余裕は無かったのだった。。
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先日のことだが、お菓子のオーダーが入って準備をしている時、味見をしたガトーがいつもと違う味わいで、
私:「なんか違う」
傷んではいない。作り方間違えたか?見た目は問題無いし、、
その時はそれを使わなかったのだが。ヴァニラか?そんなことはない。普通に問題無いはず。
なんだろう。うーん。
私はふと思い、しゃがんでショーケースの下部を覗き込み、温度を確認してみた。
私:「8℃?」
高い。なんで?霜取り中じゃないのに。ドアが開いてたか?いやいや、それはない。
お菓子というのは冷やせばよいわけではなく、おいしく食べる為の“適温”が存在する。
タルト系は冷やし過ぎたらダメだし、逆にブラン・マンジェなどのゼリー系やムースなどはキンキンに冷やした方が
おいしい。チョコレートや果物を使うお菓子は種類にもよるが常温がおいしい場合もあるし、温めるものもある。
ちなみにフランスではタルト・タタンを註文すると、基本、温めたタタンが出てくる。このタタンに冷たい
ヴァニラアイスを添えたり、クレーム・シャンティをたっぷり添えたりする。リラダンでは冷たいまま提供するけど。
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私:「これは冷蔵庫がおかしい」
私はホシザキのYさんに電話をした。Yさんは冷蔵庫の冷却フィンは熱くないかどうかを私に訊ねる。
Yさん:「触ってられないくらい熱くはないですか?」
私:「いやぁ、フツーに触れますよ。ぼんやり温い感じ」
Yさん:「ガス漏れではなさそうですが、電話ではわからないので明日行きます」
私:「お願いします!あーよかったぁ♪」
Yさん:「買い替えを検討したほうがいいかもしれませんね」
やだー!そんなこと言わないでよぉ・・
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翌朝、私は仔牛のフォンを仕込むため7時前から厨房で作業をしていた。そこにYさんから私の携帯に
電話が入り、
Yさん:「急いだほうがいいから今から行きます」
私:「おお!ありがとうございます」
その後、出社前にリラダンへ来てくれたYさん。冷却フィンを見た後、庫内の心臓部を見ながら私を呼ぶと、
Yさん:「これを見てください。本来は冷えた霜で全体に白いはずですが」
一列しか白く霜が付いていない。
Yさん:「管が詰まっていて、冷却するためのオイルが行き届いてないから、かろうじてこの部分が機能
しているんです。本来はうっすら白いんですが、霜が厚く付いちゃってるのはこの部分だけで
頑張って冷やしているからです」
なるほど。。
Yさん:「この奥を覗いてください。この細いキャピラリーチューブっていうのがあるんですが」
私:「きゃぴらりいちゅうぶ?」
この部分から霜に覆われているから問題だという。
Yさん:「修理しても結構かかりますよ。電気代もずいぶんかかってるでしょうし。買い替えたほうが
いいです」
私:「じゃあ、今日、営業の人、ここに来れますかね?」
Yさん:「連絡しておきます」
やれやれ。。
私は二回目の仔牛の骨をオーヴンへ入れ、メトロへ。
店内で通りかかったFさんに、
私:「冷蔵庫に詳しい人、誰ですか?」
Fさん:「Aさん、ですかね。Aさんはこっちも担当ですから」
ワインのAさんなの!それは意外だ。。
私はAさんの所へ。
Aさん:「“私が担当”って言ったんですか(笑)」
私:「ええ。違うんですか?」
Aさん:「Fさんも担当だから(笑)」
私:「Fさん、両手にいっぱいなんかモノ持ってたからかな」
我々二人は冷蔵庫の並ぶ売り場へ歩きながら、、
売り場に到着して、リラダンのショーケースよりは小さいのだが、似たようなモノを見て、
私:「7万!安っ!」
SIS?知らないなぁ。中国製か?
Aさん:「よく売れてますヨ。コレなんかもう3台売れましたから」
ふ~ん、、
私:「ウチのはもっと大きいんですけど、見積もりできます?」
Aさん:「わかりました」
アイミツ(合い見積もり)すっかな・・
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その後、しばらくしてAさんから私の携帯に電話があり、
Aさん:「実は、本社に問い合わせたらウチの他の店で、あの冷蔵庫を買った複数のお客さんから
クレームが入ってるらしくて」
どんな?
Aさん:「"冷えない”とか、いろいろ」
まじか。
それからして、ホシザキの営業の人から私の携帯に電話があり、夕方、来てくれることになったのだった。
Yさんに、メトロの冷蔵庫が安いっていう話をしたら、
Yさん:「中国製は、やめたほうがいいです(断言)」
やっぱり?でもどうして?
Yさん:「買ったお客さんから修理依頼が来て、中を見たら1つのモーターで2つのファンを回していたり、
部品点数が少なくて、単純な構造になってて。買って2年で壊れたとか、全然冷えないとか多いです」
そうなんだぁ。
Yさん:「中国製品は絶対、止めた方がいいです」←言葉に力がこもる
家電製品とか、巷にはやたら安いものあるけど、
業務用は、リスキーかもね。。
そして、夕方4時過ぎて、ホシザキの営業Tさんがやってきた。
Tさん:「遅くなってしまって(すみません)」
私:「いえいえ」
我々はカフェテーブルで名刺交換。早速、カタログを広げて同型同種を品定めし、、
私:「ウチのはサンデンですが、ホシザキさんの自社製品と比べてどんだけ安くできるんですか?」
Tさん:「まあ、やっぱり、ウチの製品の方が割引率は大きいです」
だよね。
サンデンの同型同種を見ると、上代30万前後である。
私:「“卸し”だといくらくらいですか?ザックリでいいですけどザックリで」
Tさん:「・・25万、以下にはならないかもしれないですねえ」
まあ、それをスタート地点にしたとしてTさんに頑張ってもらったとしても、
20を切るのはむずかしそうだな。。
私:「ウチのは5面ガラスですけど、(カタログを見ながら)ホシザキさんのはそういうの無いんですね、、」
Tさん:「ほぼ同じ大きさなのは、コレになるでしょうか、、」
「USB-50BTL1」という型式。(冷蔵)ユニット下置きタイプスイング扉。前面扉のみ硝子で、
Tさん:「3方向とも断熱材です。コールドテーブルや他の冷蔵庫と同じ構造です」
私:「まあ、ガラスよりもきちんと冷えますよね。ウチのは冬とか結露で水滴がすごくて」
問題は、ショーケースっていうほどお客さんから見えないし、見せられなくなるんだよね。でも、
ウチのお菓子って、ほとんど全部が半完成品なんだよね。註文が入ってからクぺしたり、焼き色付けたり
するから、そうでなくても元々地味なケーキばかりだし。
いくつものお菓子はテリーヌ型にも入ってるから断面も見えない。もともとショーケースの意味、無ェんだよな。
初めてご来店のお客人は、大半が「デザートは要らない」って言う。そりゃそうだよね、ガトーショコラとか
ブリュレとか。コンビニ行けばフツーに有る、どこにでもありそうなモノばかりである。わざわざリラダンで
食わなくてもいいやって思うよね。
ずいぶん前だったか、「デザート要りますか?」って言ったら「ウチに帰ったらマンジュウ有るからいい」って
言われたことがあった。"帰ったらマンジュウ有るから”は要らない気がするんだけど。
私:「Tさんは、ハイアールとか、中国製をどう思いますか?」
Tさんはしばらく黙った後に、
Tさん:「ホシザキとしてではなく、私個人として言います」
その方がいい。
Tさん:「三洋電機に知り合いが居て、ハイアールに出向していたことがあって」
私:「はい」
Tさん:「日本の企業が提携していて、日本の技術者が入っているので、昔と比べると、
良くなってるのではないかなと」
Tさんはそれ以上語らないのだが、誠実なお人柄が垣間見えた気がしたのである。
私:「本題に戻りましょう。Tさん、時間のかかる駆け引きはよして、ずばりいくらで出せるのか、
数字を出してください。あちこちで相見積しようと考えてましたけど、Tさんから買います。
すぐ出せない数字だったら待ちます。自分、向こうでタマネギ剥いてますから(笑)」
Tさんは黙ってうなずいて、
私:「過去にこんな金額で売ったことないヨーっていう数字、出してくださいね!」
Tさんはその後、なにやら調べ始め、あちこち電話をし始めたのだった。
ずいぶん長い時間が経った気がするが、多分、10分位だと思う。Tさんに呼ばれた私は剥きかけのタマネギを
最後まで剥いてから、手を拭いてカフェテーブルへ。
Tさんは、手元の電卓を私に向け、黙っていたかなにか喋ったか覚えていないけど、表示された数字を見て、
私:「買いましょう。ここまで歩み寄っていただいて、ありがとうございます」
私はTさんと握手を交わしたのだった。
私:「棚が少ないから追加したいんですが」
Tさん:「この棚っていうのが高いんですよ、、」
私:「いくら?」
Tさん:「調べないと正確な金額はわからないんですが、3,500円以下では絶対無いです」
たかーい!
Tさん:「4,000円位、かもしれません。いや、もっとするかも。とにかく3,500円はします」
2枚で7,000円超。3枚で1万を軽く越える。棚だけで?まじか。
Tさん:「後で買い足すことも出来るので、言ってくれれば私が持ってきますよ」
うーん。。
私:「Tさん、すごいムチャなこと言います。棚1枚、サービスで付けてくれませんか?」
Tさん:「ぁああ!」←頭かかえてる
私:「Tさんおねがーい!」←ヒドい人柄
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Tさん:「わかりました。いいでしょう」
私:「ありがとうございます」
とりあえず、それでなんとかしよう。そもそもケーキを常時10種類っつーのが多すぎるんだよ。
作っておいても全然出ないんだから、新しい冷蔵庫に合わせて種類を減らしてみようかな。。
Tさん:「ドアは逆ヒンジ、ですよね。在庫があるか訊いてみます。工場出荷時点で逆ヒンジであれば、
作業が不要なんです。部品点数が増えて、追加料金がかかるんです」
私:「そりゃあ、最初から逆ヒンジのヤツがいいですよね」
Tさん:「ちょっと待っててください」
電話をかけるTさんを、腕を組んで見守る私。
あちこち電話をした後、最後の電話の最中にTさんが、
Tさん:「在庫、有りました。最速,今度の木曜日に搬入できます。2時でどうですか?」
搬入を受け持つ業者さんが、私の返事を電話の向こうで待っている様子だ。
私:「2時で。はい。オーケーです」
ランチは早く閉めるかね・・
・・・・・・・
ふぃー。
まあ、思わぬ出費である。今年はこんな猛暑で、実際、もし真冬で雪が降る季節だったら今回のショーケースの
不具合に気が付かなかったかもしれない。なぜって、やっぱり店内の気温が高いと、冷蔵庫も冷やすのが大変だ
からだ。事実、定休日の月曜日、店内は暑く、ショーケースの温度計は9℃という表示で。
仕込みもあったので、店内のエアコンをつけて冷蔵庫に加勢した次第だ。ホシザキのYさんも言ってたけど、
修理依頼の電話が非常に多いらしい。これだから私は夏がきらいなのである。虫は居るし、故障は増えるし、
モノが傷むから食材にも不安が付きまとうし。私にとって夏で良いのはビールとリカールがおいしいって事だけだ。
でも、暑い夏があるからこそ秋の実りがあるのであって、ワインも良い出来になるのである。
そうはいっても、ね・・
・・・・・・・
後日、
メトロのAさんがリラダンに寄ってくれた。パナソニックの同型同種の見積もりを持ってきてくれて、
私:「や、安い!」
Aさんはドヤ顔。でも、、
私:「新しい冷蔵庫、買っちゃったんですよ」
Aさん:「あ、そうですか」
でもずいぶん安い数字を出してくれましたね。。それに、
見積もり金額に"リラダン特別価格”って書いてある(笑)。
Aさん:「他のお客さんにはこっちの価格ですョ」
割引額から更に7万以上安くしてある(驚)。まじか。。
コレ、合い見積もりしたら、違う結果が出たかも。
Aさん、ありがとうございました。
私は外まで一緒に歩いていく。Aさんの車にはご家族が乗っていて、
助手席の女のコ、すごいかわいい!
マジでAさんの子? ←すごい失礼
さあ、新しい冷蔵庫買ったし、
あと14年、がんばんないとね。
おわり