さて、
リラダンではパンにバターを出しません。それが正解かそうでないかと問われると、
店側としてバターは出してもいいし、出さなくてもいい。リラダンでは出さないだけ。
だから、「ああそうなの、リラダンではバターを出さないんだね」 そう考えてください。
14年ここ群馬でやってきて、あからさまに不満そうに振る舞う人は減った気がするけど実際はわからない。私、厨房に居るんで。
では、どうしてパンにバターを添えるのがスタンダードなのだろうか。どこに行っても必ずバターが添えられるから?バターが無いとパンを食べられないから?
フランスでは、朝食にパンやヴィエノワズリーなどのクロワッサン、パン・オ・ショコラにバターと
ジャム数種、カットフルーツ、硬質チーズ、そしてカフェオレなどをテーブル上に所狭しと並べる。まあこれはずいぶんゴージャスな朝ではあるのだが。
クロワッサンとカフェオレがあればバターなど要らない。まあそういう好みをここで語るのが目的ではなく、問題にしているのはバターが無いのがそんなに悪いのか、という話。
意外に知られていないけどフランスの食卓にバターは無い。もちろん、職場のまかないでも。住んでた人なら誰でも知ってる。
でもフランスへ旅行に行くとレストランでもホテルでもバター出てくるじゃん!と
そういう声が怒涛のように届きそう。あのぅ、それはですね、世界中からいろんな食習慣の人間が来店する高級店やホテルでバターはアリマセンって言うワケにはいかないからでしょうね。そんな中でも、フランスでは最初から黙ってバターを出す店、客に言われたら出す店、
無料で出す店、有料で出す店が混在している中、バターをくれと客に言われても出さないネオビストロもあります。リラダンはそういう店と同じ。それだけのこと。
余談だけど、イタリアンでパンにオリーヴオイルを添える習慣も実は流行によるもの。本来、パンにオリーヴオイルと塩を付けて食べるのは乞食がすることだとイタリアでは言われているんだけど、実際この食べ方ってホントにパンがウマい。イタリアのパーネ(パン)っておいしくないから食べないって言うイタリア人も居る。おいしくないパーネを塩とオリーヴオイルで食す。お金の無い乞食は頭が良いね。
そんな中、ミシュランのエトワール級の店でもこだわりのオリーヴオイル、パンの横に出したりします。
いいのよ別に。ただね、乞食が食うやり方を、気取った人がレストランで訳知り顔でやってたりすると私は苦笑いしちゃうのです。ちなみにイタリアで食事に招かれて、食卓にオリーヴオイルが無くても「欲しい」と言ってはいけませんよ。"料理がマズい”という意味にとられるようです。だから、私に言わせるとね、パンの横にオリーヴオイルを添える店は"料理に自信が無いから” という意味になっちゃうのよ。
もともと南北に長い国土イタリアという国は、北イタリアでは料理にバターを多用する。バローロやバルバレスコといった赤ワインを産出するこちらでは、生クリームやバターとも相性は良い。一方、イタリアを南下していくと、太陽の恵みによってオリーブの木が良く育つのか、料理にはオリーブオイルを多用する傾向がある。何を言いたいのかというと、南イタリア料理ではオリーブオイルと相性が良いからパーネに添えても良いんだろうけど、北イタリア料理にオリーブオイル、、というのはマリアージュ的にどうなのかな。ことに高級イタリア料理といえば北イタリア料理が多いワケで、なおさらリストランテに行ったらパーネの横にオリーブオイル、、っちゅーのはまぁヘンな気がするのです。とはいえ、昨今のシェフ達は世界中の食材を使うので、これに限った理屈は合理性を欠くのかもしれないんだけど。
フランス料理で使用するバターは基本、無塩バターなのだが、フランスの北部ブルターニュへ行くと、ボルディエ氏が手掛ける小規模なメゾンがある。様々なフレーバーバターや、ボルディエの有塩バターはフランスのシェフ達の御用達で世界的に知られている。フランス西部ではエシレバターが有名で、こちらは発酵バター。国からアペラシオンを授かってる。こういった伝統的な高級バターをテーブルに置くレストランは逆に私は嬉しいし、いいなぁと思う。パンに付けながらワインを呑む。それだけで心は満たされちゃう。
だから、パンにバターっていうのを私は否定したいのではなく。
フランスの習慣を高崎で再現しているだけ。
結論。
リラダンではパンにバターを添えません。
フランスのレストランではテーブルにパンだけが置いてあることがあります。でもそれは食事がスタートしてから手を付けるんだけど、
知らない人が多い群馬では、おなかが空いたぁ!と言っていきなりパンに手を付ける人居ます。バターが有るとこの行為に拍車がかかる。フランスでは子供もしない。
そういう人を見ると青息吐息
「知らぬが仏」
知らない方が、その人はシアワセなのかもしれませんね。
おわり