6月から続く猛暑は7月になっても収まらなかったが、台風12号が接近していたせいかどうか、月末、涼しい日が続く。
39度とか41度とか、そういう気温が続いていると30度という気温が涼しく感じるのは私だけではないだろう。
先日、ランチタイムの出来事で、
Madame:「(駐車場に)もう30分以上停まってる車があるんだけど」
私は外を見る。
Madame:「若葉マークの。エンジンかかってる」
私は裏口から外へ。運転席の若い男性に声をかける。
私:「いらっしゃいませ。ウチのお客様ですか?」
男性は道路の向こうを示しながら、
男性:「あ、今、人を待っていて、、」
私:「え?それは出てってくださいよ(怒)」
男性:「いえ、あの」
私:「ウチにご来店なんですか?」←再度確認
男性は「ハイ」と答えて、私はひたすら謝ったのだった・・
・・・・・・・
私:「大変失礼なことを申し上げました(滝汗)。ここは暑いですので、店内でお連れ様をお待ちになったら
いかがですか?」
私はどうぞどうぞと必死になったわけで。その甲斐あって、男性はそれじゃあと車を降りてくれたのだった。
やれやれ、、
気を付けないとだめじゃん。まったく、いくつになっても血の気が多いんだから、、
Madame:「でも、キンカンの木に排気ガスがずっとかかっていて」
気になっていたのだと。なるほど。。
その後、しばらくしてから車がもう一台、駐車場に入ってきて、どうやらお連れ様のようだ。先のムッシュと
同じ世代だろうか、若い男性が入店してきた。ホッとした私。さあて、頑張るかね。
・・・・・・・
件のムッシュお二人はフィクスをご注文されて、フツーに時は流れたのだった。そんな中、片方のムッシュに
"田舎風テリーヌ”という名前の由来をMさんが訊かれたらしく、
Mさん:「田舎で目にする料理だから、じゃないんですか?」
私:「ちがうよ」
パテ・ド・カンパーニュ(Pâté de Campagne)という仏語を訳すと"田舎のパテ”となる。要するに
この料理は“田舎の”という名前の料理なのだ。パリやリヨンの大都会でも“田舎風パテ”である。といっても
田舎っぽく作ったから田舎風なのではない。
この料理には言うまでもなく統一されたメソッドが存在する。それを守り、その料理はパテ・ド・カンパーニュと
名乗れる。それっぽく仕上がったからパテ・ド・カンパーニュ、、だと思ったら大間違いである。
・・・・・・・
では、どういう風に作ったらパテ・ド・カンパーニュというのだ?という声が聞こえてきそうだが、
私は旧HPで散々書いたのでここではもう書かない。ぼんやり知ってる人からあちこち突かれるのも避けたい。
興味深々に黒板のメニューを眺めているムッシュ二人に、
私:「お料理を勉強なさっているのですか?」
男性二人:「はい」
私:「学校に?」
男性二人:「〇〇調理師学校に行ってます」
そう感じて、私は声をかけたのだった。私はお二人を別のテーブルに誘い、パテ・ド・カンパーニュのルセットゥが
載っている料理書(原書)を開いて見せた。お時間が有れば、もしよろしければ、と、勧めたのだった。
14時をまわり、厨房の片づけもままならない中、私はお二人のテーブルへ向かった。椅子を持って座った私は、
リラダンという店がどういうレストランなのかを語りだし、、
お二人はかくもごとく、私の餌食になったのである(笑)。15時を過ぎてもなお、気のお優しいお二人は
笑顔でお付き合いしてくれたのだった。
次は、パテとテリーヌの違いをつぶやいてみようと思う。あ、この話題は旧HPで書いたので、
二番煎じとなる(笑)。
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テリーヌ(Terrine)というのは、テリーヌ型に詰めて仕上げれば全て「テリーヌ」という料理になる。肉のテリーヌも
あれば魚介類のテリーヌもあるし、野菜のテリーヌや果物のテリーヌ、リラダンのガトー・オペラのようにテリーヌ型
で仕上げればオペラのテリーヌとも呼べる。フランスでのそれはテリーヌ型ではない大きな耐熱皿などにファルスを詰
め、豚の背脂を格子状に被せ、更に網脂で覆ったパテ・ド・カンパーニュの方が主流。それゆえに、実はテリーヌ・ド
カンパーニュという名称では元々しっくりこない。それが理由ではないが。
3キロ強の、大きなパテをクぺ(カット)すれば、アシェット(皿)いっぱいに断面が広がり、厚さが5ミリでも充分食べ応え
がある。コルニションを数本置いたらもう何も載らない。そういうのがまたフランスっぽい。
ではリラダンのようにテリーヌ型で仕上げるものはパテ・ド・カンパーニュとは呼べないのか?というとそうではない。
どの入れ物で焼いたかどうかというのはそれほど重要ではない。私に言わせれば、そんなことはパテを知る人達にとって
の不文律である。重きを置くべきなのは、"作り手がメソッドに従って作成したのかどうか”ということなのだ。
そもそもパテというのは "パート(生地)で覆う” ものである。パイ生地やパン生地、パート・ブリゼ(練り生地)を型に敷き、
ファルスを詰める。上もパートで覆い、蓋をする。穴を開けて煙突を設け、強めのオーヴンで焼き色をつけたもの、それ
が「パテ」である。一方、テリーヌというのは"焼き色を付けてはダメ”で、焼き色が付かない様に焼成しなければならない。
テリーヌのカテゴリにパテが入るのか、パテのカテゴリにテリーヌが入るのか、そもそも両者は別物なのか、同一なのか、
私見でまとめてみたい。まず、テリーヌは加熱と非加熱両方存在するが、パテは加熱のみである。テリーヌは野菜などを
使って見た目も鮮やかに仕上げるものがある一方、パテは練り物主体で、肉片や内臓類を入れ込み、最後はジュレを流し
入れる手の込みようだ。ちなみにパテ・アンクルート(Pâté en croute)という料理があるが、これはいわば一人分のパテで、
これを10人分として作ったものが「パテ」だといえる。これをテリーヌと呼ぶにはいささか抵抗がある。
"じゃあなぜパテ・ド・カンパーニュはパートで覆われてないのにパテなの?説明してみろ!”という声が聞こえてきそうだ。
では説明しよう。
昔から、フランスの各家庭でも作られていたこのパテ・ド・カンパーニュは"パートの無いパテ”として唯一の例外なのである。
皆さん、怒んないで・・(笑)
パテとテリーヌの違い。それは「パートを使うか使わないか」の一言に尽きる。なまじパテ・ド・カンパーニュがパートを
使用していないからこういう議論に発展してしまうのだ。両者共々、例外も存在するし、どちらの名称を使ってもよさそう
な料理もある。要は作り手の意識次第なのだ。ただ言えるのは、そういう知識を持たずに脱線する人があまりにも多い
のでややこしくなるのだろう。知ってて脱線するのと知らないで脱線するのは大きく異なる。私も気を付けたい。
これは余談だが、リラダンにはフロマージュ・ド・テット(Fromage de tête)というテリーヌがある。これは他の店では
テート・ド・フロマージュ(Tête de Fromage)とメニューに載せているのを見かけるが、私に言わせると間違っている。
正式名称は前者である。もしかして、後者の方が呼びやすいから?理由はよく解らないのだが、なぜ間違いかというと、
この名称に使われている単語が、世間でいうチーズという意味のフロマージュだと思っている人が居るようだからだ。
現代のフロマージュというスペルと同じだからそう思われてしまうのだが、実は昔、ゼリー寄せのような料理や技法を
当時はフロマージュと呼んでいたのだ。したがって、この料理名はその名の通り、豚の頭肉のフロマージュ(ゼリー寄せ)
という料理名で正しいのである。テート・ド・フロマージュだと「ゼリー寄せの頭」っていう意味になっちゃうもん。。
とまあ、こういう話をお二人に語っていたわけなのだ。喋ったうちの一部だが。
ずっと喋ってろと言われたら、私は延々と喋ってる。私に会いに来る方々は、私がそういう人間だということを
よく知っていて、
時間に余裕がある時にしか、みんなは私に会いに来ない。。
ひとりごと再開。
ここに宣言したい。
おわり